「チャレンジを称賛する」――”自転車”で行く、2日間のオーガナイジングの旅
2023年3月3日(土)、4日(日)の2日間、オンライン第7回目となる「コミュニティ・オーガナイジング・ワークショップ」が開催されました。日本全国の様々な地域から参加した35名の皆さんと、24名の運営スタッフが共に、2日間のオーガナイジングの旅に出ました。
毎回早々に席が埋まってしまう本ワークショップ。初日開始時、zoomに続々と入室してくる参加者からは、緊張とともに、開催を心待ちにしてくださっていた熱量が伺えました。開講時にノーム(ワークショップでのお約束)づくりを行う際には、コーチの「皆さんからありますか?」の問いかけに続々と手が上がりました。その内容は、この場の話はこの場に止めることや時間を守ること、互いの発言を尊重することはもちろん、「チャレンジを称賛する」があがるなど、コミュニティ・オーガナイジングの学び方「まずは自転車に乗ってみよう」がさっそく実践されていました。
初日午前中はまず、3人組にコーチが1人つき、質問と言い換えを使って課題解決が滞っている原因を見つけどうアプローチするのか自分自身で見つける「コーチング」が行われます。その後で6人ずつの参加者が6つのチームに分かれ、2人のコーチとともに変化を起こすためのキャンペーンをステップを踏んでつくっていきます。それにはフォローコーチ、時間に沿って綿密にブレイクアウトルームを組んでいくテックチームの存在が欠かせません。
「戦略だけでは人は動かない」――【ストーリー・オブ・セルフ】【関係構築】【チーム構築】
各チームの6人の参加者は、その日が初対面。地域・ジェンダー・世代の多様性はもちろんのこと、背景の多様性、つまり企業で働く人、NPOや労働組合で活動している人、医療・介護・福祉の現場に携わる人、議員、学生などーを持っています。1つの組織に属しているわけでもなければ、各自の関心も環境、ジェンダー、まちづくり、チームビルディング、労働、と異なっています。ワークショップに期待することも、今すぐ活動で使いたいという人から、これを機に何かの活動に参加してみたいという人まで、実にさまざまです。
「こんなに多様なチームで1つのキャンペーンが作れるのだろうか?」と思う参加者もいたかもしれない中、チームでの最初のワークは【ストーリー・オブ・セルフ】。講義したコーチやモデル(見本のストーリーを話す人)、各チームのコーチのストーリー共有に続き、参加者自身が、活動の原動力が何なのか、自分の経験に紐づいた価値観を2分間で話します。考える時間は5分。「まだできていません~」と言いながらもしっかりとまとめて話していた参加者の皆さんのチャレンジにはすごいの一言です。振り返りでも「自転車に乗った気がした」という声がありました。
参加者の事後アンケートでは「ストーリー・オブ・セルフをつくってみて、私ってこんな価値観・想いを持っていたんだと気付きました」などの声が聞かれました。
ストーリー・オブ・セルフを語り「なぜ私が活動するのか」を共有した次のステップは【関係構築】。講義を聞き、見本の動画を見た後に「関係構築される側」「する側」の1対1での対話を行います。互いが「何」に関心を持っているのかとともに、互いが「なぜ」その活動をしているのか(価値観)や互いの資源が共有され、次の具体的な約束を求めるワークです。お互いのストーリーや活動を手掛かりに、丁寧に対話を進めている様子が印象的でした。
事後アンケートでは「初対面でも対話が叶えば、価値観は共有できるし、共通点が全くないように思えても、何か引っ掛かる糸口があるんだなという経験ができました。困難はあるかもしれないけれど、一人ひとりと関係構築を積み重ねていけば、私たちにも変化が起こせるはず、と思うことができました」などの声がありました。
【関係構築】の中で2人で共有した価値観を、6人のチーム全体で共有し、チームの共有目的やチームの一体感を高めていくためのチーム名とチャント(チームの士気を高めるために行うダンスや掛け声)づくり、そして各人の資源や役割を確認していくのが次のステップ【チーム構築】です。価値観に気付いた経験が共有され、各チームが目指したいゴールに向けて誰(同志)と何(活動)をするのかを話し合って決めていきます。
事後アンケートでは「チーム構築は、年齢も性別も居住地も違うメンバーが一つの目標に向かえることに感動と驚きの連続でした」「『人に役割を渡す』ということが人を奮い立たせるのに欠かせないポイントだということを知りました」などの声がありました。
共有目的とチーム名・チャントを全体で発表し、振り返りを行ったのち、第1日が終わりました。振り返りの共有では、「zoomがスムーズだった」「zoomでは離れている感じがしてしまうが、テックが音楽を流してくれたので繋がっている感じが得られた」など、テックチームへの感謝の声が上がりました。全体を見てくれているフィードバックに一体感が高まりました。
「感情・共感こそが人を動かす」――【戦略Ⅰ】【戦略Ⅱ】【パブリック・ナラティブ】
第2日目は【戦略Ⅰ】から始まりました。今すぐに解決したい同志の困難を、絵に描けるくらい鮮明にしていきます。直面する困難にどうすれば変化が起こせるのか、達成したい戦略的ゴールを定めチームで話し合い、まとめていきます。前日に対話を進めてきた各チームでは、自己開示が進み、さらに率直な意見が交わされていました。
その上で、【戦略Ⅱ】として、前日に確認した資源や同志の資源をもとに、どうすれば困難な状況に変化を起こせるまでにパワーを高められるのか、効果的な戦術を話し合い、キャンペーンのタイムラインに落とし込んでいきます。
このステップの最後には、全体で各チームによるキャンペーンの発表が行われました。「あなたもわたしも大切さんたち〜集合ーー!!〜」「人と作物をそだて隊」「キャンプファイヤー」「デコボコまるごと応援団」「ラッシュアワー(RUSH OUR)(忙しい時期を1人でなくみんなでいきたい)」「ありのまま流星群」というチーム名の各チームが「個人(自然を含む)が大切にされる」「多様性を認め合える」「声をあげて行動できるようになる」「誰もがありのままの自分で暮らしやすい」社会に向けての具体的なアクションを生き生きと語りました。
事後アンケートでは、「同志を中心に据えながら展開していく大切さ、戦略だけではなく感情に働きかける大切さを感じた。エピソードは共感や行動を生む大切なツールだと感じた」「最初は、初めて会う方への自己開示に抵抗があったが、自己開示することで、課題感や実現したい社会に対する原動力の解像度を上げることができた。ひとりひとりの歩んできた人生を自分と重ねながら実感することで、他者により興味を持つことができた」との声がありました。経験をベースとしたストーリーへの共感がキャンペーンの自分ごと化に繋がっていくことが伺えました。
第2日目の最後は、キャンペーンに対して具体的なアクションを呼びかける【パブリック・ナラティブ】です。ストーリー・オブ・セルフに加え、ストーリー・オブ・アス(私たち)、ストーリー・オブ・ナウ(緊急性)を盛り込んだストーリーを3分で話します。2日間のワークショップの中で起きたことをアスに含めて語ったモデルは多くの共感を呼び覚まし、アクションを求める「参加してくれる人はzoomの手を挙げるボタンを押してください」との声に、ババババッと反応があり、手を挙げた人で画面が埋め尽くされました。
参加者も、チームで語りコーチングを受けた後、各チームから1人が全体で語りました。共感して涙ぐむストーリー、勇気づけられるストーリー、今すぐアクションに参加したくなるストーリー、みんなが真剣に聞き入る時間となりました。
「ストーリー最強」
第2日目の全体振り返りでは、パブリック・ナラティブを受けてストーリーの大事さに言及し、ストーリーが、それを語る個人も聞く周囲もエンパワーし勇気づけ、つながりや活動に繋がっていくことを体感的に理解したとの声が数多く上がりました。
事後アンケートでは「語りがもっともよかった、という感想が多かったことが印象的でした。やっぱり人は人の語りに惹かれるのだと確認しました」などの声がありました。
また、「私は、ワークショップ終了後1ヶ月以内に、何かのアクションに挑戦するだろう」との問いに、「とてもそう思う」と答えた参加者は、ワークショップ前は60%であったのが、終了後には90%近くに上昇していました。事後アンケートでも、すでに関係構築を実践してみた、ストーリーを語ってみた、プレゼンに使った、コーチングを行い始めたなどの声が聞かれ、ワークショップでの経験が日常での実践に活かされていることが伺えました。皆さんの日常でのチャレンジに「ナイス!」です。
参加者やスタッフが多様なそれぞれの現場に経験を持ち帰り、日常での活動に活かしていくことで間違いなく社会は良くなる。そこに大きな希望を感じ、自分もチャレンジしようと勇気づけられたワークショップでした。
レポート:小谷 幸(コーチ)