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代表退任のあいさつ(2代目代表 室田信一)

 COJ初代代表の鎌田華乃子から2017年に代表を引き継いでから3年間、代表理事を務めさせていただきましたが、この度、退任することとさせていただきました。代表を務めた期間、またそれ以前からお世話になった皆様に改めてお礼申し上げます。

 鎌田と知り合ったのが2013年の年始でした。当初は2人で妄想して、その妄想に仲間が1人加わり、そして年末には9人の仲間と最初のワークショップを開催し、2014年にCOJという組織が立ち上がりました。それから5年ほどが経ち、全国で5000人以上がワークショップを受講して、コーチを務めた経験のある仲間は80人を超えました。COJが関わったキャンペーンも生み出され、人々が生活のあり方や社会のあり方を変えたいと思ったときにコミュニティ・オーガナイジング(CO)という考え方が役に立つ機会が増えてきたように思います。7年前にこのような世界を思い描いていたかというと、実は思い描いていました。そして、COが実践される世界はこれからも続いていくものとして、すでに多くの人によって思い描かれています。この歩みが止まることはないと確信しています。

 振り返ると、代表としての3年間は平坦なものではありませんでした。COJの経営危機はその最たるもので、今でも1年後の組織の存続が保証されているものではありません。しかし、ピンチのたびに誰かが立ち上がり、誰かがリーダーシップを発揮して、その歩みがさらに次なる歩みを生み出してきたように思います。

 鎌田をはじめ、設立時のメンバー数名は今後もCOJの役員として残りますが、発足時のメンバーの1人である私がCOJの役員としての役割を「卒業」するということは、この組織のあるべき姿を象徴していると思います。卒業後も、COJのスピリッツを胸に、そしてCOJの経験を糧に、新たなスノーフレークを生み出しながらCOが実践される社会をつくる一助になるよう、邁進していきたいと思います。

2013年12月にガンツ博士を招いて行ったワークショップは、NHKクローズアップ現代で取り上げられた。

 COJの関係者をはじめ、7年間お世話になった皆様、本当にありがとうございました。そして、これからも引き続きよろしくお願いします。

 最後に、子育てで猛烈に忙しい時期に、僕の夢の実現をサポートしてくれた妻に感謝します。


信一さん、あいさつを寄せてくださりありがとうございました。そして代表理事、お疲れ様でした。役員ではなくなりますが、今後も私たちのコミュニティを育て希望に満ちた社会を共につくる同志として、よろしくお願いします!!

(安谷屋貴子)

  • COJの
    vision:仲間と一緒に変えていく、という希望に満ちた社会へ
    mission:人々のパワーで変化を起こす手法と勇気を届ける
  • 感想やコメントなどありましたらぜひ、私へのメール(email hidden; JavaScript is required)などでお寄せください。
  • COJは主催事業(主にワークショップ)と委託事業(ワークショップや社会へのアクションの伴走・サポート支援)を行っていますが、みなさんからの月額寄付/スポット寄付によって支えられています。寄付を通して一緒に社会に希望を届けましょう(こちらからご寄付いただけます)。

コロナ禍の私たち~コミュニティ・オーガナイジングはどう活きたのか~第3回:中山友里×武田緑

今年2月27日、安倍首相から新型コロナウィルスへの対応として全国の小中学校に対して「一斉休校」が要請された。そのニュースを見て最初に思い浮かべたのは、夫婦とも教師で3人の子どもを育てる友人の顔だった。直感的に「無理がある」と思った。

中山友里さん(ゴンちゃん)から「学校休校関係で、なんかキャンペーンはじめてる動きってありますか?」というメッセージを受け取り、面識のなかった武田緑さんと3人でまず話そうと、zoomでミーティングをしたのが2月28日の16時過ぎで、Change.orgで署名を集めるキャンペーンをすることがその場で決まった。

なぜ私たちが動いたのか。すぐに動けたのか。動いた結果をどう受け止めているか。キャンペーンから5カ月ほど経った8月1日、安谷屋(あだにー)がゴンちゃんと緑さんの2人に改めて聞いてみた。

【この記事は約10分で読めます】
– 目次 –
1、署名集めキャンペーン概要
2、なぜすぐに動けたのか
3、署名で空気を作って地域ごとのチャレンジを後押ししたい
4、「正しさ」は人によって環境によって違う
5、やってみて見えたこと
6、COJのオンラインワークショップの希望

 

キャンペーンページはコチラ

1、署名集めキャンペーン概要

  • 目指したこと:2月27日、政府による突然の全国一斉休校の要請、休校措置によって危機・窮地に立たされる子どもや保護者のために、休校期間の短縮、子どもたちの居場所と食事の確保、要支援家庭・児童へのアウトリーチ支援、これらのための財政措置を国などに求める署名を多く集め、地域コミュニティ単位での具体的な動きを後押しすること
  • 期間:3月2日スタート、12日文科省提出、26日終了
  • 集まった署名:18,455筆(12日は3月11日までに18,014筆を提出)
  • 得られたこと
    署名による「思い」の可視化:「このままではまずい!」と思っても出口のないまま黙ってしまうことが多い中、署名をすることで行動できるチャンネルを1つ示すことができた
    可視化された声に共鳴して、アクションが生まれたり、
    「勇気づけられた」との声が届いた:滋賀県で学童を再開させることを署名集めで実現させることにつながった。要望書やプレスリリースのテンプレートを作って公開した
    文科省の方と直接お話し、現状を伝えることができた:特にアウトリーチが必要な人の存在について、自分の経験を踏まえて「具体的に人が死にます」と緊急性を伝えた。それに対して社会的養護の子どもたちへの給付金の政策策定に関わったという、担当者の方ご自身の経験を踏まえて、アウトリーチの必要性がわかるとおっしゃっていただけて、同じ景色を見ていると感じられた

2、なぜすぐに動けたのか

ー(あだにー)動き出しがすごく早かったと記憶しているけれど、どんな経緯だったっけ?

(緑)ゴンちゃんと他何人かで「何かできひんかな?」って話し始めた。
(ゴン)そうそう。「(この動き)なんか変だよね」というところから何かやらなきゃいけないと。
(緑)いろいろやり得ることがあると思うけど、公的にサポートする動きを作り出す必要があるから、署名集めかな?という流れだった。

ー(あだにー)なるほどなるほど。その話の流れでゴンちゃんが私に声をかけてくれたのはどうしてだったの?

(ゴン)ちょうどCOJのワークショップが予定されていて、私はコーチ(※1)として、緑は学び直しのために2度目の参加をそれぞれ考えていたときだったし、「キャンペーン」ならCOJかなと。動いている人がいるならそれに乗っかって大きな動きにできないかと思ったが、その動きを自分では探せなかったので、あだにーが一斉休校についてSNSに投稿しているのを見て、「何か動きありますか?」と聞いた。共感してくれそうと思った。
(緑)広く声を集めるというよりは小さい力で大きな動きを作れるような、声をあげられるプラットフォーム作りを目指した署名集めだった。

ー(あだにー)私と緑さんは会ったこともなかったけど、違和感なく一緒に動き出せたよね。笑

(緑)COJの人、ゴンちゃんが言う人なら大丈夫だろうと思った。
(あだにー)ゴンちゃんとの関係性はもちろんだけど、緑さんがコミュニティ・オーガナイジング(CO)やCOJをどう捉えていたから「大丈夫」だったんだろう?
(ゴン)イデオロギーみたいなものが運動していると派閥化しがちだけど、COJはそういう意味では新しい団体だからどのイデオロギーにも別に染まっていない。キャンペーンをしたい人のためにツールを提供している団体だからじゃないかな。
(緑)それはある!私は変に色が付くことは警戒するタイプ。COJは偏っていない。昔ながらの運動は思考停止状態でシロクロはっきりしているものが多いけれど、そういう感じではないという安心感があった。

ー(あだにー)署名集めにCOのメソッドやCOJのリソースが活かされるという意識はあった?

(ゴン)やりやすいアクションとして署名を集めようと思ったとき、ナラティブ(※2)の見せ方は重要。その(ナラティブをより訴えかけるものにするための)コーチングやそれで(署名が)広がるかどうかの視点は必要だから、(あだにーが入ることで)CO視点が入ることは心強いと思っていた

3、署名で空気を作って地域ごとのチャレンジを後押ししたい

ー(あだにー)キャンペーンを進めるに当たって意識していたこと、目指していたことを改めて思い出すとどんなことがあった?

(緑)国や自治体に対して全体的な働きかけとして署名があって、それを見た人が自分の周囲の地域やコミュニティで動けるようなことを目指した。伝播して同じような署名が立ち上がったり、そういう動きをする人たちと連携できたりするイメージ。滋賀県の学童の指導員さんたちが動いて、実際に学童を開けることができたという、具体的な成果を生むことができたが、そういうのを増やしたかった。
(あだにー)うんうん、そういう他の人、地域の動きをマネして広がる、横展開をイメージしていたよね。
(緑)そこまで広がりきらなかったとは思っているけど、それを意識していたから、プレスリリースと要望書のテンプレートを公開した。

ー(あだにー)細かい話だけれど、文科省に署名提出のアポを取る手順とかも、シェアしたいって話したね。

(緑)署名賛同人の中に、文科省が普段お世話になっている人が含まれていると話が進みやすいのは確か。

4、「正しさ」は人によって環境によって違う

ー(あだにー)コロナ禍で何をするにも怖さがあることも、広がらなかった要因の1つだったと思うけれど、不確実性が高い中で動き出すには何が必要なんだろう?

(ゴン)コミュニティかなと思う。コロナウィルスの感染が拡大する中で、休校をやめることがゴールかどうかもわからなかった。実際、高校生たちから「休校にして。安全を守って」という署名が立ち上がっているのを見て、正しさが人によっても環境によっても違うと実感した。いろんなリソースのある人は「学校に行かない」ことを選択しても問題ない。でも私たちがあのキャンペーンでしたかったのは、(子どもが)学校に行かないと親が働けない状況の人たちがいることへの理解を広めることだった。(今学校に行くことは感染の危険があるから)行きたくない人が行きたくないと言えたり、学校に行くことでセーフティーネットが保たれている人が、学校を再開してと言えたりすることに、一人じゃないと思えるコミュニティがあったり、そこにつながるためのツールが必要だとは思った。

(緑)私は、見通し。こういう風に動いたらこんなことが起こってこんな感じで進んでいくんだなという見通し。初めての人はみんな持っていない。私は署名立ち上げと拡散までのイメージは持っていたから「それなりの数が集まるはず」という見通しは持てていた。記者会見をあのときようやらんかったのは、見通しが持ちにくかったから。最初からは難しいが、少しずつやってみる中で想像がつくようになったらチャレンジできる。最初はコミュニティやチームの端っこにジョインしてみるような機会、経験がたくさんあるといい。

(ゴン)コロナ休校によって子どもと過ごす時間ができて良かったという声もある。子どもが何人いるかだけでも違う。持っているストーリーが違うから正しさが違う。

5、やってみて見えたこと

ー(あだにー)キャンペーンをした経験は何かにつながっている?やってみてよかったと思うことはある?

(ゴン)直接提出に行けたのは良かった。メディアに注目してもらうためのやり方や提出後の動きなど改善点、やり直せるならこうしたいというのが浮かぶのはそこ。

(あだにー)直接文科省の担当者と話せたのは私も意味があったと思った。担当者にも経験に基づいたストーリーがあって、そういうのを聞けると、ただ批判するというスタンスから、どう一緒によりよくできるかという考え方に進める実感があった。やることに意味があるね。

(ゴン)ある程度オーガナイザーのような人が出てくるのが重要なのではないか。世の中に政治家しかいないから政治家に陳情しに行って、道路やダムを作ってもらう。そういう手順を企業は知っているから談合しても何をしてもその道を行く。でも市民にはその道が見えないし知らないから声があがらなくて動きも生まれない。それを変えるためには、声のあげ方を教えて一緒に動くオーガナイザーがひょっとしたら必要なのではないかなと思う。
(緑)そういう風に方向性を教えてくれる人や、ぺらっと1枚にまとまっているマニュアルなどは動き出すときの力になりそう

(緑)あともう一つ!賛同人を多様な分野からたくさん集めることはできてよかった。リソースが活きたし、文科省提出の際にも功を奏した。

6、COJのオンラインワークショップの希望

ー(あだにー)これから学ぶ人にどんなことをオススメしたいですか?

(ゴン)具体的に変えたいこと、起こしたいアクションがある人にとっては(COのどのモジュールも)使える要素。戦略の立て方、チームをどう作っていくのか。ただノウハウを伝えるだけではなく、小手先でやろうということではなく、どうやってほんとうに物事を変えていくチームや力になっていくのかを学べるという点ですごく意味がある。
(緑)何か変えたいと思ったときに、変えられる気がしない。道筋が見えなさすぎてちっともわからないことってある。社会全体に関わる大きなことではなくても、自分の地域や学校の中でCO的エッセンスで物事を変えたぞとか、新しい仕組みを作ったなどの実践が普通にたくさんあるといい。それがまだあまりない中で、体系化されていて具体的にやりかたを学べることがとてもいい。ちょっとずつ練習する。アメリカの大学ではそうだと聞いているが(※3)、小さなことからコミュニティをベースに練習できるのがいい

(緑)COでつながるオンラインのコミュニティができることは可能性がありそう。オンラインだと日々進捗共有したり、進捗をみんなで支え合うことができる。おさらいしたいときに、自分のプロジェクトを回している人同士で話せるコミュニティ。そういう感じになりそうだったらぜひ入りたい。

(あだにー)コロナがしばらく続くだろうというときに、人と人が会わないと力が生まれないと考えている人が、オンラインワークショップで何かを見つけてもらえたらいいと思っている。日本で何かにチャレンジすることは勇気がいるし心が折れやすい。応援し合えるコミュニティの可能性は大きい。気持ちも前向きになる。そういうことを意識してコミュニティづくりをしていきたい


40分ほどのインタビューを「久しぶりに会えて話せて良かった」「落ち着いたら会おうね」「いつ落ち着くんだろうね。でもほんとに会おうね!」と、清々しく終えた。

短い時間に大事なポイントがたくさん詰まっていたので、こぼさないようにまとめておこう。

▼Column:ベースはストーリー。経験が見通しを生み、見通しがないときに求められるのはオーガナイザー。そしてプロジェクトを実践している人同士のエンパワメントの有効性

1、ストーリーによって人は動く
私たちのキャンペーンのベースにあったのはゴンちゃんのストーリー(ナラティブ)。キャンペーンサイトにも載せたし、文科省での提出の際も語った。自分の経験があるから具体的に困難に直面している人を想像できる。ストーリーを聞いた人もその人なりに場面を想像できるから何とかしなきゃと思う。改めてストーリーの大切さを実感した。

2、不確実な状況で動くために必要なこと
たった一人で声を挙げたり動き出すことは怖い。一人じゃないと思えるコミュニティやそこにつながれる扉が必要。その上で動き出すためには動いた先の世界を描ける戦略があって、それを成功させられそうな経験に基づくある程度の見通しが立てられるかどうか。怖さや不安(心)、戦略(頭)、経験(手)の視点を持って導くオーガナイザーも必要。

3、プロジェクトを実践する人同士のオンラインコミュニティの可能性
体系的に学べること、ただノウハウのインプットがされるのとは違って、ほんとうに変化を起こすためのチームや力をどう作るのかをワークを通して学べることの意味は大きい。そして今回はオンラインだからこその可能性が見えた。社会に対してアクションを起こすことは勇気が要るし、続けることも難しい。それを支え合えるコミュニティが作れたら、私たちCOJが目指す「希望に満ちた社会」に近づく大きな一歩になりそうである。

最後に
そのオンラインワークショップが9月12日 – 13日にあります。2日間を通してその後のつながり、コミュニティ作りにもチャレンジしたいです。ぜひ一緒に学び、つながりませんか?もしよかったらこちらもチェックしてみてください。なお、早割の締め切りが8/7と迫っておりますので、お早めのご決断をお勧めいたします。
http://communityorganizing.jp/workshop/2ndonlinews/


※1:COJのワークショップでは6人程度のグループワークを取り入れていて、1グループに1~2人の「コーチ」というファシリテーターがワークをサポートする
※2:ナラティブとは物語を指す言葉。「どうして署名を集めたいか」を論理的に説明するのではなく、経験を語ることで読み手の感情に働きかけられる語りを、COJではワークショップ等でよりよくするためのコーチングを行っている
※3:COJはハーバード大学の大学院のマーシャル・ガンツ博士が体系化した学びをベースに活動している。ガンツ博士の大学院の講義は、実践の課題が出て、学生は実践しながら学ぶ

(代表理事 安谷屋貴子)

コロナ禍の私たち~コミュニティ・オーガナイジングはどう活きたのか~ 第2回:井上広之

 

「26歳という若さでNGOの事務局長を勤めているんだからすごいよな〜。」

井上広之さん。

僕が初めて彼の名前を聞いたのは確かそんな会話だった。実際お会いしてみると噂に違わぬ人物で、ユーモアを持ち、親しみを感じる一方でやることはやる、そんなイメージの人だ。COJでは昨年9月に実施したマンスリーサポーターを募るためのファンドレイジングキャンペーンでの立役者だ。僕らは親しみを込めて「ひろさん」と呼ばせてもらっている。

彼は現在も国際NGOソルト・パヤタスの事務局長を勤められている。フィリピンで子ども、母親の支援を行う傍、啓発活動も欠かさない。そんな国を跨ぎ、組織を超えて活躍している彼に声をかけたのは、コロナ禍におけるNGOのリアルに触れてみたいと感じたからだった。

ロックダウンにより市民の外出が厳しく制限されてしまった街となってしまったフィリピンに彼はどう向き合っているのだろうか?

- 目次 -
1、国際NGOソルト・パヤタスとコロナ
2、困難を分かち合う対話
3、答えのない難問と共に
4、現地から希望を見出すオーガナイザーの視点
5、社会を変えたいと願う人をつくる

【この記事は約10分で読めます】

国際NGOソルト・パヤタスとコロナ

ーひろさん、お疲れ様です。今日は急なご連絡にも関わらず、ありがとうございます。ところで、10kg痩せたと聞きましたけどほんまに痩せはりましたね笑

そうやねん。食事制限と運動をしてて、最近、食事は前の感じに戻したかな。りゅうちゃんも痩せたよね。

 

ー僕はコケたとよく言われますが、僕の話はいいので早速お話を聞かせてください笑。実は意外とお話聞くのが初めてなので、そもそもソルト・パヤタスが何をしているか聞いてもいいですか?

そうよね。事業は3つあって、1つ目は子供への教育支援。そもそもうちは子どもたちに奨学金を出すのが始まりなので、教育支援が今も中心的な事業かな。2つ目は女性の収入向上支援。特に子どもを持つ母親たちに対して仕事の機会を与えるような活動をやってる。3つ目が啓発事業で、主にはスタディツアーやイベントをやってる。

1995年設立して、現在は3つの事業全体で見ると母子の支援を中心にやってる感じ。基本的には日本で支援してくれる個人・団体のスポンサー募り、その支援を現地の子供に届ける活動をしてて、僕は2代目的な立場やね。

 

ーへぇ、そうなんですね。どう言った経緯で2代目に?

学生時代にインターンをフィリピンでしてたのが最初やね。その時はNGOで働くなんて思っていなかったかな。生活費を稼ぐのも大変そうやし、その上、仕事はめっちゃ忙しそうって思ってたから。だから、NGOで仕事していくイメージがなくて最初は一般企業に就職した感じかな。

ただ、就職してからも国内で手伝えることは手伝ってて、東京でのイベントとかはよく行ってたね。でも、ソルトは福岡に拠点があるから、福岡に行ってまでって言うのはあんまりなかったけど。

それで、そうするうちにNPOやNGOの運営が面白いなと思えてきた。そう思えたのはもちろん、ソルトでのボランティアもあったけど、COJのコーチをさせてもらったりしたのも大きかったかな。

 

ーおぉ、大学から社会人にかけてソルト・パヤタスとは関わりを切らなかったんですね。どのタイミングでそちらへ移られたんですか?

一つは当時の本業があんまりピンときていなくて、普通に転職を考えたね。フィリピンに限らず海外、途上国に関わる仕事がしたいとは思ってたかな。たまたま丁度その時にソルト・パヤタスの今後の存続に関する話が団体内で出たんよね。当時、設立して20年くらいやっていたけど、今後どうしていくか…持続的な運営のために新しい人を入れたいという話に…。

それで職員の募集をかけるという話があったんやけど、これまでの職員を見ていると団体の財政的な問題もあって1年以上持つ人がなかなかいなくって…。その未来が見えて、また誰かすぐいなくなって団体が大変になるくらい僕がやりたいなと思った。

それが2016年。それから事業は続いてて、あれから5年くらい活動しているかな。2018年には創設者の方が一旦実務から離れられるようになって、ひとまず世代交代したという感じ。

 

ー団体も激動の中を潜り抜けて今があるんですね。そんな中、新型コロナが感染拡大しましたが、現在はどんな活動をされていますか。

3月中旬、フィリピンでロックダウンが始まって、指定業種以外は操業停止してん。公共交通機関も止められたね。地域によっては緩やかやけど、世界で一番ロックダウンが長いらしい。3月、4月は仕事できなくなる人が多かったね。

僕たちが支援している地域にはその日暮らしの人も多いから、生活の糧がない状況が続いてる。仕事ができなくなり、貯金もないという人が少なくなかったから食糧支援をやっているNGOもあったかな。うちの団体もロックダウンが始まって1週間後から、支援地域で食糧配布を始めた。日本も大変な状況やけど寄付集めを開始して、75万円くらいの支援が集まった。本当にありがたかったね。

食糧配布の支援を一旦完了させて、僕らは今大学の研究者と一緒にロックダウンが子どもに与える影響を調査するための準備をしている。一旦コロナによる瞬間的な危機を超えて、今後の活動をどうしていくかを考えていく段階に入っていった感じ。そういう日々が続いた中で、フィリピンで活動する他の団体さんはどうするんかなと思った。他の団体の人も多分思ってたっぽい。

というのは、僕が知っているフィリピンで活動しているNGOは事業規模は決して大きくはないけど、市民参加を大事にしながら経営しているところが多い。そういったNGOにとって個人の寄付や会費に加えて、スタディーツアーの収入はとても貴重な収入源やねんけど、今年はコロナの影響でそれができない。

ただ、他のNGOの代表とは2、3回挨拶程度で話をしたことはあったけど、みんな集まって話したことはなかったから「近況報告とかしません?」という流れで集まったのが最初。その時はみんなどうしているかを知りたいくらいの感じで。

 

困難を分かち合う対話

ー最初集まってからその後どう展開していったんですか?

5月中旬に最初に集まって、その時に、4団体集まり、それぞれやっていることは違っていた。あるところはその時点で、オンラインイベントに切り替えていて、すでに1回イベントを実施していた。しかも結構人数も集まっていた。その時点で夏までの計画もあってすごいなと。

他はストレートに団体の危機を訴える寄付キャンペーンをやってたり、公的補助のようなものもキャッチして申請も頑張ってたりと色々。うちはうちで大学研究者の人とロックダウンが子どもに与える影響を調査していたからその話を紹介したかな。

お互いに同じピンチでもやっていることが違うという話になって面白かったね。その時はそれで終わったけど「またこういうことができたらいいよね」と。2回目は2週間後くらいに実施したかな。

話す中でわかってきたのは他の団体も今年の資金はなんとか目処が立ちそうということ。というのはコロナ禍でも応援してくださる支援者の方からの寄付もあるし、補助金なども受けられたりする。逆に言えば来年以降はきついかもという話になってきたんよね。

そんな中でも共有できていたのは、今年、途上国にいきたかった大学生とかは悔しい思いをしているだろうなという問題意識。だからこそ、来年とか海外行けるようになった時に、今年国内でもどかしい思いをしている学生たちに発信する機会を設けようというのが共有できたのは良かった。

そうすると、次に海外に行けるタイミングでフィリピンに行こうと思ってもらいたいから、僕らのNGOの中からスタディツアーとかボランティアプログラムに参加してもらえる人を育てておきたいよねと。それで今回、合同でオンラインイベントをしようという話になった。第3回目の打ち合わせが今日の昼にある。

 

ーおぉ、めっちゃタイムリーっすね笑。これまでとの違いはありますか?

まずは、国内の職員はほぼ僕だけ。フィリピンにいけないのが寂しいかな。ペース的にフィリピンに行くことでモチベーションを保っていたからね。今月から再開している現地の活動もストップしているから発信できることもあんまりなかったんよね。図書館を運営している時だと図書館の様子や子供たちの様子を発信したりもしているがそういうのもあまりない。スタディツアーがないので、収入も下がってしまうのもある。

現地の活動が動かない限りは発信もできないし、発信できないと寄付とか次のアクションも誘導しづらい。その上、スタディツアーがないと参加の機会が減ってしまう。だから割と今でもどうしたらいいかなというのは考えている。そこを考えるのが重要な仕事なんやけど…。

 

ー…。

 

オンラインのイベントはどっちにしてもやらないといけないと思いつつ、僕らも動いている。学生支部の子の話を聞いていても大変。僕が大学生やったら嫌やと思う。フィリピンのNGOの違いがわからないという意見もあったので、これを機会にフィリピンの日系NGOのことをいったん全部知れるという機会が提供できるというのはこの状況でモヤモヤしている日本の大学生にとってもいい機会を提供できるのではないかと思っているかな。

 

答えのない難問と共に

ー現地にも、運営にも、学生にも影響が及んでるんですね。ひろさんも含めて組織の士気はどんな感じでしょうか?

僕個人としては割と今年はしゃーないとしつつ、来年以降に繋がる活動をしていきたいとちょっとずつマインドは切り替わってきてるかな。職員の方でいうと現地に駐在の人がいたけど、たまたまコロナの前くらいに帰国して休職してる。日本人で動いているスタッフは今の所、僕だけ。フィリピン人のスタッフは元気にいるって感じ。

現場の方は単純にすることがない。外出できないので移動の制限がされているし、それによるストレスもかかっている。運営的にもスタディツアーの収益の大半なので「このままじゃやばい」という雰囲気は感じていると思う。そういう意味でも現地の方は割としんどそう。

学生とかはSNSとかオンラインに慣れている分、切り替えは早い。ただ、新入生の歓迎を対面でできなかったのは残念がってたな。学生インターンは3月、4月が入れ替わる時期。4月からは本当は3人行く予定だったのは僕らとしても残念やね。

 

ー外出の制限ってどのくらいなんですかね?なんかロックダウンのイメージが全然違う気がしました。

フィリピンでは各家庭に外出許可証が配られて、その許可証を持った人、つまり、各家庭から一人しか外出できない。その外出許可書を持っていないと取締対象になる。ちなみにその許可証を持ってても21歳以下と65歳以上は外出禁止。僕らの活動は図書館にきてもらったり、お母さんに集まってきてもらったりとか前提だった。それができないし、オンラインに切り替えることもできない。

ーかなり極限状態ですね。そんな中で現地のオンライン環境はどんな感じ?

繋がるけど、画質は悪い。頻繁に途切れたりする。使えるとはちょっと言いにくいかな。

 

ー日本のコロナ禍の制限と比べると制度的、技術的な制限が大きそうですね。そんな中で今後の方針はどのようにお考えですか?

 

この期間、ずっと考えていた。

 

お金の問題はいつまでもつきまとってくる。お金の問題を理事で語る時に一番最初に心配されるのって俺の給料。それって俺がっつり当事者なので、その話されるのしんどい。俺の人件費どうするかみたいな話をしている時間はもったいないなと感じてしまう。

だって、その時間、本当は現地の貧困問題の解決に向けた話し合いができるのに。このことを解決しようと思うと2つしかない。一つはまるっきり心配がなくなるくらい稼ぐこと。もう一つは人件費をなくすこと。極論やけどね。でも、例えば日本人は人件費がなくても事業が回るように運営形態をシフトチェンジするというのは選択肢の一つとして考えていく必要もあるのではないかと個人的には思っている。

NPOの収入源って寄付、会費、助成金、事業収入とか。助成金はタイミングと内容が合わないといけないから運が必要。寄付、会費は頑張っても時間かかる。事業収入だけは正しく頑張ればしっかり回収できる。自分たちの努力次第と考えていた。

でも、今はそもそもフィリピンにいけない。どう頑張ってもお金稼げないみたいな状況はありえるんやなと考えてしまう部分がある。お金稼ぐ方にというよりはお金かからんように努力を変えたほうが良いのかなと最近は思っている部分がある。

 

それは、ソルトを残して、現地を支え続けるためにね。

 

 

現地から希望を見出すオーガナイザーの視点

ー容易い道ではなさそうです。何が鍵になるでしょうか?

それを実現するには現地の人が自立する状態が大前提なので大変だとは思う。続けるには日本からの投入は少なくなってしまう。それが減ったから子どもに支援できなくなるとかだけは避けないといけない。

今後はどこまで何ができるかわからない。だからこそ、現地の人たちが自分たちの力で現地やフィリピンの問題を解決していくんだと思ってもらわないといけない。ただ、本来NGOってそうあるべきやと思う。それを真剣に考え出した。

 

ー現地のリーダーシップが求められるわけですね。その点から言うと学んでいてよかったコミュニティ・オーガナイジング(以下CO)のモジュールはありますか?

「当事者が何を持っているか?」と考えるのはすごく大事やなと。コロナ禍においてもそうやけど、COを最初受けた時からすごい素敵やなと思った。インターンしている時にすっごいモヤモヤしていた。現地のお母さんとかすごい元気で良いところたくさんあるのになと思う。でも本人たちは「私たちにはお金がないし、学校も卒業していないから学力もないし、学歴もない。スキルも知識もない。」と言ってしまうことがある。

カテゴリ分けしてしまうとそこにいるのは社会的弱者と呼ばれる人たちなのかもしれない。だけど、なのか、だからなのかわからないけど自分にないものばかり注目してしまう。当事者である彼らも、支援者と呼ばれる僕たちも。そして、ないと言われれば、それを届けようとする人がいる。お金がないならお金を。食べるものがないなら食べ物を送る。

僕はそれに関してモヤモヤしていた。COのワークショップ(以下WS)を受けた時に「資源」という言葉を使っているけどその人が何を持っているかに注目していたことに共感した。その上でどうしても足りないものは外部の資源を活用してみたいな感じ。

COにおける戦略は地域の人が持っているものに、着目して自分たちの環境を変えるパワーに創るというのはすごいよかった。だから、COの考え方はすごく大事にしている。

現場にいって、地域の人と話すときとかはかなり意識してやるようにしている。例えば何かプロジェクトをしようとするときに、彼女たちは「私たちにそんなスキルや経験はない」と言ってしまうことがある。

でも、そこで「本当にそのスキルってないの?」と聞き返す。すると必ず、小さくても過去に何かの活動をしている。地域内や家族内でリーダーシップを発揮した経験が少なからずある。資源がそこにある前提でコミュニケーションを取れるのはNGOワーカーとして大事なこと。それをCOで学べたなと思う。

 

ー現地の人々にそういう視点で関わってきているわけですね。その上で、どのような課題を感じますか?

距離感は難しい。現地にあるものでとは言いつつ、「困ったら日本に頼れば良い」とどこかで思ってしまってる面もあると思う。もちろん僕たちも「困ったら頼れる存在でありたい」と思って活動を続けてきた面もある。そのバランスは難しい。頼られる存在でありたいと願いつつ、頼られすぎるとよくない気もする。介入しすぎると常に日本から支援があると思われても難しい。今回のような場合は特にね。

 

ーリアリティのあるジレンマを聞かせていただけてありがたいです。その上でそこを乗り越えていくために今、現地に何が必要でしょうか?

大きな成功体験かなと。成功体験ってたくさんあるはずなんですけど、振り返ってみれば成功体験ってあったよねという感じ。外部の人から見た時に成功体験ってわかる。当事者からしたら当たり前にやってきているので成功体験として認識していない。

イメージでいうとそんなに練習してなかったけど、試合で勝てちゃったみたいなのと、めっちゃ練習して勝てたとでは努力することに対する認識が違う。そこが今までふわっと活動してきて、成功体験っぽいのはある。現状、過程が追いついてないかなと。

なので、目標決めて、戦略立てて、プロジェクトを回して成功できたらほんまに自分たちにもできるんだなと思ってもらえるような気がする。2、3年前からその辺りを意識してトライはして、少しずつは形になってきたかなと思う。

 

ー努力に対する認識。突き刺さりますね。その観点から見たときにコロナはピンチに見えますか?チャンスに見えますか?

事業的には大ピンチやなと笑。ただ、チャンスとまでは言わないがこの機会にやれてることはあるかな。ついこの間、現地のスタッフが食料品を購入して、時に大量の食料品を小分けにしないといけないかった。その時に現地とスカイプ繋いだんよ。

話を聞いているとずっと支援される立場だったけど、地域の人たちのために配る食糧配布して、貢献できている自分にはやりがいを感じると。それはチャンスというか単純にうれしかった。

彼女たちは単なる受益者ではなかった。ただただ支援を受け続けるだけの存在ではなかったし、地域のために活動することにやりがいや喜びを感じれる人がそこにいるんやということを改めて確認できた。個人的には希望。そういう人がいないと僕らは成り立たない。

そういう人がいれば、ソルトジャパンがいなくても未来を作れる。そういう人がいるのを確認できたこととそういう一部の人に感じてもらえたのはもしかしたらよかったのかもしれない。

 

社会を変えたいと願う人をつくる

ー苦しい中にも希望が垣間見えているようですね。最後にこれからCOを学ぶ方へのメッセージをお願いします。

ちょっと話変わるけど、NPO法が成立して20周年の記念イヤーの時にNPO成立に携わった松原さんという方が主催する3日間の集中研修に行かしてもらった。その時、松原さんが「NPO法は、NPOという社会を変えるための組織を作るためのものではないんだ」とおっしゃった。

元々、特定非営利活動促進法は市民活動促進法で通そうとしていたらしい。本当は市民活動を促進するための法律だと。NPO法人は市民活動を促進するためのプラットフォームであるべきだと。だから、NPO法人の目的は社会を変えることではなく、社会を変えたいと願う人をつくることだと。

これは僕がCOがすごいなというか、良いなと思ったポイントと重なる。機会や場を提供することだという言葉はすごく衝撃的だった。どっちかっていうとソルトが社会の貧困を解決するんだと思ってたから。僕らだけで変えるわけではないんだと思えた。

COJがやっているのはまさにそういうことだと思う。社会を変えるというよりは社会を変えたいと思う人に技術やスキル、ノウハウ、ネットワークを提供していくという意味では、まさに「NPO法人」だなと。

 

ーなるほど、NPO法にはそんな背景があるんですね。その上でどんな方に受けてもらいたいと思いますか?

「仲間を増やしたい人」かな。個人的には自分が社会を変えたいって思っていることも大切やけど、「周りにすげぇ頑張っている人がいるから応援したい」くらいの人が受けた方がいいかなと。

オーガナイザーは黒子的な感じやし、そういう人が身につけた方が発揮されるスキルだと思う。だから「自分はリーダーなんかじゃない」という人ほど受けて欲しいな。

僕自身もフィリピンで頑張っているお母さんを応援するために自分のスキルを保つようにしている。リーダーシップっていうと、イメージは団体代表とか若干キラキラしている人のイメージがあるかもしれないけど、地道に頑張っている黒子的な役割の人にこそ受けて欲しいな。

 

ーとても共感します。オーガナイズするというのは実際の所、地道な対話の積み重ねだと感じています。目の前の人がどうすれば輝くのかを考えている人の等身大のリーダーシップであることがCOの良さだと感じています。本日は貴重なお話をありがとうございました!

ありがとうございました。

 

次世代のリーダー像とCO

インタビュー中、しばしば訪れた「間」。

そこに一人の実践者としてのひろさんのリアルなジレンマや葛藤が感じられた。

「どうすればいいだろうか?」

もしそんなことを「リーダー」と呼ばれる立場の人が呟いたら叱りつける人がいるかもしれない。「リーダーなのに何の方向性を指し示せていない」と。

しかし…。

しかし、だ。

「僕は今もわからずにいるんだ。あなたはどう思う?」と問いかけることができるリーダーシップがあってもいいと僕は思う。いや、むしろ、先の見通しの立たない時代に一面的な視点から強引に指し示すリーダーシップは却って問題を深刻化させることはないだろうか?

決める力が大事なのはこれまでの時代ときっと変わらない。

でも、それと同じくらい今起きていることに真摯に向き合う力が大切なのだと思う。「どうすればいいだろう?」と僕らが悩むのは、今何が起きているか知りたいという探究心からくるものだと思う。

国境の狭間。様々な想いを揺れ動く難問に挑む彼が、それでもなお、現場から希望を見出そうとする姿勢にオーガナイザーとしての意志を感じた。

 

▼Column:Community Organizingからひろさんの実践を振り返る

ひろさんの実践のなかで最も重要なポイントは「同志」という概念です。

同志…ある目的を達成するために「共に立ち上がる」ことを学んだ人々のこと。

英語ではComrade。僚友(苦労を共にできるような親しさ) 仲間という意味だそうです。ラテン語では「一緒に立ち上がる」となります。

私たちはワークショップの際に「課題に直面する当事者は誰ですか?」と聞きます。それはその課題を解決するためではありますが、その方々を「支援」するためではありません。COのポイントですが、「課題に直面する当事者自身がその課題を解決できるようにすること」が大切です。

課題に直面する同志たちが共に立ち上がり、自分たちの課題を解決していくことを目指して、チームを立ち上げ、戦略を作り、アクションに移していく。

インタビューで現地の母親たちが「私たちには何もない」というところに、ひろさんが「本当にないんですかね?」と聞き返していくシーンがあったかと思いますが、まさに同志が自分自身の持っているものに気づき、自分たちが持っている課題を解決できるように促していくシーンだと思います。

オーガナイザーは、課題を解決してあげる人ではありません。オーガナイザーは課題を解決しようと立ち上がる人々が解決できるようにリーダーシップを高めていく存在です。この考え方は医療、教育、福祉に限らず、ビジネスの現場などでも応用できるものだと思いますので、課題解決を目指す全ての皆さんに学んでいただければと思います。

▼最後に

9月12日 – 13日にそんなCOを学べる2日間のワークショップがあります。実践しながら学びますので、2日目を終える頃にはこの記事のひろさんの実践がまた違って読めると思います。もしよかったらこちらもチェックしてみてください。なお、早割が8/7と迫っておりますので、お早めのご決断をお勧めいたします。

https://www.facebook.com/events/313690556476311/

▼コロナ禍の私たち – コミュニティオーガナイジングはどう生きたのか? –第一回:山口浩次篇はこちら

http://communityorganizing.jp/blog/interviewcovid19/?fbclid=IwAR0rnKd_6AjBd2Ci9pKf6sOzTJYl2SixzejiBbiUOgMCS0ckk6yt9z0gLG0

 

コロナ禍の私たち~コミュニティ・オーガナイジングはどう活きたのか~ 第1回:山口浩次

関西でコミュニティ・オーガナイジング(以下、CO)を広げている人を思い浮かべる時、僕はまずこの人の顔が浮かぶ。

山口浩次さん。

僕たちはこうじさんと親しく呼ばせていただいているが、大津市社会福祉協議会で30年勤め、現在、事務局次長という立ち位置から組織全体をマネジメントしている。以前、彼と一緒に大津市を歩いた時、道すがら「山口さん、お疲れ様です!」と何度も街の人に声をかけられたことがあったほど、地域にしっかり根を張りながら活動をされている。

誰もが激動を感じているこの時代にこうじさんは何を見据え、どう動いたのか、少しでも聞けないかとインタビューをさせていただいた。これからCOを学ぶ人がその可能性を見出せることを願って。

【この記事は約10分で読めます】
– 目次 –
1、大災害の幕開け
2、スローガンの価値 – 「柔軟に、スピード感を持って、正確に」 –
3、市民を置き去りにしない社協職員の『こだわり』
4、連携を運動に変える仕組み
5、関係構築を続け、采配し、戦略を更新し続ける
6、最悪のシナリオと残された希望

大災害の幕開け

ーこうじさん、忙しい中、急なご連絡にもかかわらずありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。

いえいえ、たまたま空いてました。こちらこそ、よろしくお願いします。

ー早速ですがコロナ禍ではどのように動いておられたのですか?

そうですね。まず、事業の見直しが迫られました。業務継続計画(BCP)を書き換えましたね。これまで、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震の応援に行った時のことも思い出し、これは大災害になる入り口だと思いました。そこで、平時の対応から災害対応する社協に活動を変える必要がありました。

ー具体的にはどう変わりますか?

大きな違いは平常時は活動を予想通りに進められるので自分たちの戦略で活動ができます。しかし、災害時は予期せぬことが起こるので随時、戦略を変えていく必要があります。

そして、これが大事なところですが、戦略を実行するのは組織なので組織論が必要です。職員55人の一体感が必要です。まずは管理職6名もそうですし、トップ、つまり会長まで含んだ全体の一体感を作っていきました。

ーなるほど。そんな中の実際のエピソードを教えてください。

そうですね。当初感じたのは大災害の幕開けということでした。日常の事業計画から優先しないといけない業務とそうでない業務の仕分けを行う必要がありました。本会の業務継続計画(BCP)は、地震と豪雨を想定していたので、パンデミックには備えていなかったんですね。

緊急だったので、今回のコロナ禍における業務継続計画の書き換えを幹部会議で提案しました。各5人のリーダーには、4月当初の3日で提出してもらいました。そうして出てきた業務継続計画を精査して、今どうしてもやらないといけないことを3つに絞りました。

1つ目は給与管理や勤怠管理の総務部門。2つ目は、認知症や障害を持っている人の金銭管理の部門。3つ目が、国の施策であるコロナ禍の特定貸付の業務です。

ー特定貸付の業務というのはどういったものでしょうか?

いわゆるコロナ貸付というやつで、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、収入の減少や休業等により生活に困窮し、日常生活の維持が困難となっている世帯への貸付業務です。国のコロナ緊急対策に位置付けられた事業で、各都道府県社協が実施主体となり、市町社協が受付窓口を担っています。特例貸付には、2種類あって、小口資金は、10万円から20万円を1回のみ借りることができ、無利子で、1年後から返済が開始され、返済は2年間です。もう一つが、総合支援資金です。月に15万円から20万円を借りることができて、無利子で、1年後から10年間をかけて返済をするものです。

スローガンの価値 – 「柔軟に、スピード感を持って、正確に」 –

ーなるほど。まさにコロナ禍にしかない業務だったということですね。

はい。普段から貸付業務の担当者はある程度うまく対応できるのですが、コロナ禍の業務見直しによって、部門間連携による応援メンバーは普段馴染みのない業務なので、対応はかなり大変でしたね。さらに、特例とついているように今までの貸付業務と全く異なる仕様なんですね。保証人が不要であったり、郵送での受付が可能であったりと、緊急性が伝わってくる仕様でした。特例であることが、日頃貸付を担当する職員を混乱させました。しかも、連日マスコミで特例貸付の宣伝が進み、国からの文書も何回にも分けてだされました。

ーおぉ、二重苦、三重苦って感じですね…。どう乗り越えはったんですか?

本会では、毎日、特例貸付の担当者の反省会をしていました。その際、3つの言葉が生まれました。一つ目は柔軟に対応しようということです。綿密でなくていい。今多くの人が困っている中なので、この制度を柔軟に運用して、利用者に使いやすいものにしようということです。二つ目はスピード感を持っていくことです。困っている人は日々困っているので、今すぐに支援が必要ですからね。3つ目は正確にやろうということです。焦って処理を間違えると結果的に利用者にお金が届くのが1週間程度も遅れてしまう。

この「柔軟に、スピード感を持って、正確に」を事務所に張り出しました。このスローガンを大きな指針にしつつ、業務にあたりました。これは熊本での災害支援の経験が活きました。

私が、熊本県大津町の災害ボランティアセンターに入ったときに、続々と新しい社協の職員が近畿や九州各地からやってきました。新しく応援に来た職員に対して、大津町の災害ボランティアセンターの理念を表した言葉を作ろうと考えました。毎日の反省会を通して、私が考えたのは、「がれきを見ずに人を見る。俺たちが何とかしたいのは人だ」という言葉です。大津町のセンター長は、熊本弁に直して、「ガレキを見らんで人ば視る。おったちが何とかしたいのは人たい」と言うスローガンになりました。このスローガンで新しくボランティアセンターに応援に来た職員にセンターの理念を伝えることができたようです。

※写真は実際に熊本で掲げられた当時のもの(提供:山口浩次さん)

ーおおお、なるほど。シンプルに目的を伝えられるから人が動けるようになるわけですね。現場で動くための指針としてはこのくらいシンプルであることが重要なのかもしれません。対照的にこうじさんと同等、あるいはそれより上の役職にある管理職に人たちにはどのように関わったのでしょうか?

私たち幹部4人は、コロナ禍の特例貸付の職場での対策をどうにかしないいけないと思っていました。私は、この現状を乗り切るためには幹部の4人が一枚岩にならないと乗り切れないと感じました。毎朝、朝礼の後の幹部ミーティングでは今日起こること、今週起こること、昨日起こったことを共有するようにしました。

私は、ミクロ、メゾ、マクロの視点を常に意識していました。ミクロは、今回の場合は現場での特例貸付の業務のことです。メゾは、特例貸付を対応する職場の仕組みや組織体制のことです。マクロは、特例貸付の厚生労働省の制度設計や全国社会福祉協議会の仕組みのことです。そうした3つの観点で見ると、トップマネージメントは、多角的な視点が求められることが分かります。こうした視点をもって、提案するのも私の仕事でした。

もちろん、私が毎日の幹部ミーティングで、局長、次長に伝えたのは現場で起きた10の出来事のうち、報告が必要と思われる1つか2つの特徴的な事案でした。また、特例貸付の現場担当者は、毎日の反省会をホワイトボードに記録して、毎日の動きを見えるようにしてくれていたのも助かりました。

市民を置き去りにしない社協職員の『こだわり』

ーなるほど。組織の内部での激動の様子が臨場感を持って伝わってきました。しかし、同時にそんな中でもマスク作りのプロジェクトや大津市民病院応援プロジェクトを立ち上げられ、市民の皆さんへのアプローチも欠かされていなかったと聞いています。それだけの忙しさの中でなぜそこへアプローチされたのですか?

特例貸付業務を行う中で見えてきたのは、この業務だけでは市民には今起きていることを伝えられないということでした。そして、どこかの段階で必ず市民の力を借りる必要が出てくるはずだと思っていましたので、市民をちゃんと巻き込んで、市民のモチベーションを上げる必要があると感じていました。

しかし、傾聴ボランティアや、民生委員、学区社協などの普段のボランティア活動は、コロナで人が集まれないので、活動ができません。そこで、とにかくステイホームをしている人たちにマスクを手作りで作ってもらって、福祉施設に届けることを提案しました。

というのは、ボランティアをその気にさせるのが得意なボランティアコーディネーターが在籍していました。そのコーディネーターに提案したら次の日には、『コロナに負けないゾウ』のチラシをしっかり作ってくれました。私は、マスクの生地を大量に買って、コーディネーターにお渡ししました。すると、コーディネーターのマッチングのおかげで、2か月のうちに市内外のボランティアさんたちから2500枚を超える手作りマスクが送られてきました。

嬉しかったのは緊急事態宣言の時にボランティアが生き生きしたことです。これはなんとかしたいと思う人たちの心と現場のニーズを繋げた一つの事例だと思います。

ーなんとかしたいと思う人たちと現場のニーズを繋いでいくと簡単におっしゃっておられますが、緊急性が高く、先の見通しが立たない中でなかなかできる判断じゃないですよね。市民病院のほうはどうでしょうか?

当時、大津市社協にはN95の医療用マスクがあったんです。一年前に、業者から寄付でいただいていたものです。当時、福祉施設にも希望を募って配布したのですが、使われなかったマスクが本会の倉庫に約5000枚あったんですね。

そのことを会長に伝えたら、会長の判断で今、マスクを一番必要としているのは病院だろうということで、県の感染症対策病院に指定されている大津市民病院にご連絡して、2000枚ほどマスクを差し上げました。必要な時に困っている人にものを送ると喜ばれるということを感じましたね。その時に、市民病院から、職員が疲れているので、精神的な応援がほしいというSOSを、会長を通じて、受け取りました。

そして、これをきっかけに大津市民病院応援プロジェクトが立ち上がりました。私たちは支援者を支援することを普段から掲げているので、市民病院の応援を始めました。当時は手作りのマスクを贈ったり、医療用ガウンの代替としてレインコートを贈ったりしました。

そんな中、市民病院が、医療用の機械の購入のためにつけていた150万円の予算が消毒やマスクなどで厳しくなったので、6月に150万円の寄付プロジェクトを立ち上げました。民生委員や、地元の祭りの実行委員会の協力があり、現在、約100万円ほど集まっています。

連携を運動に変える仕組み

ー「ヒト・モノ・カネ」全部集めてますね。すごい市民力…。改めてですがなんでそこまで頑張れるんですか?

実は、本会の職員の圧倒的多数は疲れています。しかし、市民を巻き込むことで現場で頑張っている人がまた頑張れるようになるんです。そして、トップも取材や関係機関とのやりとりの際に前へ出るので、トップのモチベーションも上がります。すると、現場は上の人があれだけ頑張っているから頑張ろうとモチベーションが上がります。市民の力を借りるということは同時に自分たちが支えられるということでもあると思いますね。

ー視野が広すぎて、恐れ入ります…。ちなみに、この間、社協さんの間で連携とかはあったんですか?

そうですね。特例貸付が始まった3月末、あっという間に2週間先まで予定が埋まりました。そんな中、現場で「特例貸付をお願いします。」と来られた市民に、職員が「2週間後にもう一度来てください」とやりとりし、残念そうに帰る市民と、それを見送るやりきれない気持ちの職員の姿を見た時に、「このやり方は持たないな」と思いました。そこで、3月末の金曜日の大都市である堺市社協の課長に電話をして聞きました。すると、特例貸付は、予約制ではなく、郵便と来所相談で対応していると聞きました。郵送方式は、本会では全然考えなかった方法でした。次に寝屋川社協の課長に電話で情報交換をしたときも、感染対策として対面を避けるため郵送で対応していると聞いて、これだと思いましたね。それが3月末の金曜日の夕方です。土曜日に局長に連絡をして了解を取り、滋賀県社協にも連絡をして、郵送方式の了解を取りまし。早速、次の月曜日から、電話で、住所を聞いて、毎日約50件程度の問い合わせに対応をすることができました。

ーかなり効果的だったんですね。

えぇ、ただ、これだけだとうちの話で終わってしまいます。この時、「きっと全国の社協職員は困っているだろう」と思いました。これは今、全国のネットワークを作るタイミングだと感じました。そこで、寝屋川市社協の課長が関西社協コミュニティワーカー協会の会長だったこともあり、今こそ、全国の社協職員で、特例貸付を担当している管理職のネットワークを作ろうと呼び掛けたところ、10人くらいの全国の社協職員が、メッセンジャーでつながることになりました。

メッセンジャーのメンバー中には、厚労省の職員、仙台、宮城、京都、大阪、奈良、滋賀、鳥取のメンバーが入ってくれました。そして、毎日のように特例貸付の情報共有を行っていました。そこで得たことを大津だけで使っていてはもったいないので、滋賀県内の有志ネットワークやCOで出会ったメンバーとも共有をしていきました。

そんな動きが作れていくと、厚労省の方もおられたので、現場の動きが国の方向性を変えていくという流れになりました。例えば、当初、貸付には実印を取らないといけないということになっていましたが、次第に実印や印鑑証明がいらないという流れになっていきました。各参加者が、府県の意見を集約して、全社協、厚労省に働きかけるようなこともありました。やや大げさに言うと、メッセンジャーのネットワークが国の動きや全国の社協の動きを作っていくことができましたね。何よりも、各社協の現場で孤立しがちな管理職が、非常時に繋がりあえたことは、とても有意義なことでした。

関係構築を続け、采配し、戦略を更新し続ける

ーまさに運動という感じですね。ここまでの一連の動きの中で学んでてよかったと思えるCOの技はありますか?

つながる時に自分のストーリーを語ることを大切にしていましたね。短い時間で関係を作る必要があったので、シンプルに自分の想いを伝えられたのはよかったです。活動の中で堺市社協に電話した後に、熊本の応援に行った時の100人以上いるLINEグループに情報を流したんですけど一人も返事がなかったんですね。

改めて、一人一人と関係性を築いていない中では動いてもらうのは難しいと感じました。また、100人のLINEグループは人数が多すぎたのもあると思いますね。SNSでつながるなら多くて10人ですね。精鋭10人を集め、メッセンジャーで動かしていくことが重要でした。100人を一つのグループに集めるよりも、関係が構築できた10人のグループを10個作る方が大切だと今は感じています。

あとは…。

あっ、プロジェクトは全て戦略の考え方を大切にしていましたね。ただ、通常の戦略では、最終の目的から考えると思いますが、見通しが立たなかったので、大きな目標をたて、動きつつ、山を立てながら、色々なことをクリアしていく感じで動いていた気がしますね。

そうやって考えながら動いていくことで、コロナ禍の活動は市社協だけでは大変だなと気づきました。事務所の中だけでなく、社協以外の人たちの協力は絶対欲しいと思いました。そんな想いがここまでお話ししたような活動につながっていると思います。

ー本当にさすがです。伺っているとCOを学んだからできたわけではなく、こうじさんが日々の活動の中で「オーガナイザー」としての視点を磨いてこられた賜物でもあるのだなと感じました。特に、貸付業務が忙しい中、ボランティアコーディネーターの方を本来業務に戻したあたりなんかはまさに現場の采配ですよね?

まさしく、そう。

そのコーディネーターは、特例貸付の電話対応があまり得意ではなかったんですね。「自分は特例貸付の力になれていない」とつぶやいていました、それなら、地域でもんもんとしている市民ボランティアをコーディネートをしてもらおうと思えました。すると、先ほどお話ししたような結果につながりました。もしかしたら、そのコーディネーターは、最近のなかで最も輝いた瞬間だったかもしれません。

ー激動の中だからこそ人生にも強い影響を与えているわけですね。大津市社協は全社的にCOを学ぼうという流れがあったかと思いますが、チームでCOを学んでいたことの価値は感じましたか?

そうですね。COの研修を受けた中心メンバーが地域福祉課にいます。彼らが貸付業務に配置されたときに、業務のことは全然わからない中でしたが、チーム構築を意識してやっているように見えました。とりあえず今日は頑張ろうと声をかけ、チームの一員として何ができるかを考えてくれていました。

特にありがたかったのは特例貸付には小口資金と総合支援資金の2種類がありますが、地域福祉課のメンバーが小口貸付に関して相談から起案まで全部をやると手をあげてくれたことでしたね。あれはコロナ禍での、大津市社協のチーム力を高めた気がします。

また、一人一人が「私がやっている」と自覚していてくれました。相談支援課の課内ミーティングでは「それぞれがリーダーシップをとって欲しい。失敗したら謝るということでいい」と繰り返し伝えていました。

災害時、僕らがやってきたことでほんまにこれやなと思ったのは、それぞれがリーダーシップをとることなんです。災害時に限っては、それぞれが現場で判断をして、失敗したら謝る。上司にはその後報告することで十分だという裁量を与えることが必要だと感じました。

最悪のシナリオと残された希望

ーまさしくCOのリーダーシップの哲学である「責任を引き受けること。その責任とは先の見通しの立たない不確かな状況下で他者が目的を達成できるようにすること」と一致する宣言ですね。失敗していいからやってみなはれと背中を押してあげるというこうじさん自身のプレゼンスが出ている気がします。そんな大津市社協での取り組みですが、今後の課題や方向性はどのように感じていますか?

……。

そうですね…。

コロナの第二波、第三波がインフルエンザの時期と重なることを考えると、今年一年はコロナと共にあるだろうと見通しています。常々、職員にはその時何ができて、何ができなかったのかを記録しておくように伝えています。地域福祉をやっているメンバーにとっては今まで経験したことのなかったことを経験していますからね。記録と振り返りが大切だと感じています。

コロナ禍で、何ができて、何ができなかったのか、そこの振り返りが大切です。私は、今日も生活に困っている人の申請書を見ていました。状況はますますひどくなっています。その姿は肌感覚ですが、リーマンショックの時の10倍は大変です。

リーマンショック後はその立て直しのために生活困窮者自立支援法として子どもの貧困対策などの国の方向性が生まれました。それくらい大きな方向転換が必要だったわけです。今はその10倍の出来事が起こっていると言っていいでしょう。これからは必ず今までの社協活動のある部分はやめて新しい貧困対策をしていかないといけないと強い危機感を感じています。

具体的には、タクシー、観光、飲食、建築、音楽業界など私たちが今まで相談を受けてこなかった業界の人たちの給与が上がってこないというのがあります。そして、おそらくそんな方々が失業した時に、その人たちができる仕事はなかなかありません。確かに介護職は足りていないのですが、失業した人が介護職にうまく馴染めることでもないように感じます。その一方で生活保護をみんなが受けられるかというと持ち家、ローンがあり、生活保護を受けられない層も少なからずいます。

ー……。……。

私は、コロナ禍の困窮とその後の孤立が、自殺などの形で、大量に現れないかと非常に危惧しています。考えすぎかもしれませんね。私は書類でしか、市民の困りごとを見ていませんが、申請用紙を通じて嘆きの声が聞こえきます。

ー言葉を失いますね。なんと言っていいか。

誰も経験してこなかった大貧困社会が来ます。

住む場所、仕事など色々なミスマッチが起きています。社協は今こそ、これまでの活動内容や方向性を見直して、実際に自殺を食い止め、仕事探しや、仕事づくりをどうするのかを考えなくてはいけません。

また、現時点で、私たちが取り組んでいる課題もなくなるわけではありません。引きこもりの人たちがたくさんいる中でそういう方々の集いをどう作るのか?これからの時代にどう福祉を実践していくのかが問われています。それは今までの延長かもしれませんが、今までとは質的に異なるものです。

次の世代の人たちにはミクロ、メゾ、マクロの視点で動く私の背中を見せていきたいです。

ー希望はあるのでしょうか。9/12 – 13にCOJ主催のオンラインワークショップがあります。これからCOを学ぶ方へのメッセージをお願いします。

COはすごいです。COの理論、技術は是非とも必要です。これからどの分野で働くにしても起きていることを見立て、語り、力を合わせることは必ず求められます。COのスキルは社会運動に限らず、人生にとって大事なスキルです。

合わせて大切にしたいのはマネジメントの能力です。つまり、組織をどう運営するかです。マネジメントをしながら人を育てる組織マネジメントの能力が必要です。自分の食い扶持をしっかり作れないと社会運動は続けられません。

そして、それらを実践していくにはリーダーシップが必要です。COを学ぶことでスキルとしてのリーダーシップを入り口にして、今回のような、ここぞという時に、力を発揮できる人になっていってもらえたら嬉しいです。

ー力強いメッセージありがとうございます。お話しいただいたことは今後もみんなで考えていきたいですね。

そうですね。考えていきましょう。

ー今日はありがとうございました。


zoomの終了ボタンを押した後、焦点の定まらない目で青白い画面を見つめながら、こうじさんの言葉の一つ一つを反芻していた。

「がれきを見ずに人を見る。俺たちが何とかしたいのは人だ」

この言葉は強烈なインパクトを僕の胸に残した。

「理論だけを見ずに現場を見る。俺たちが何とかしたいのはそこで生きている人だ」

こうじさんの語りの中にはそんな臨場感を感じた。そうだ、その通りだ。絶望的な状況はきっと続いてしまう。だからこそ、諦めずに現場に臨む彼のような生き方が、それをみる誰かに希望を与える。

今日、僕が彼から希望を受け取ったように。

▼Column:コミュニティ・オーガナイジング(CO)からこうじさんの実践を振り返る

こうじさんの実践を振り返るポイントは以下の3つです。
1、短い時間で効果的に『関係構築』を行ったこと
関係構築のポイントは情報ではなく、価値観を交換することです。こうじさんは自分のストーリーを伝えることで、相手の想いも聴き、関係をつくっていきました。単純な情報交換では「いいことが聞けてよかった」で終わってしまいます。「一緒にやろう」というためには共有している想いを知ることが大切です。

2、適切に人材を配置し、『チーム構築』をしたこと
求められている役割とその人が得意とすることは必ずしも一致しないことがあります。その時に柔軟にチームの構造を変えていきました。そして、任せる時には大胆に作業ではなく、役割を任せていました。作業を任せるのは指示が伴いますが、役割を任せるには目的の共有が必要です。「もんもんとしているボランティアに輝いてもらう」そんなビジョンを共有することもリーダーシップスキルです。

3、変わり続ける状況の中で臨機応変に『戦略』を見直し続けたこと
「大きな目標をたて、動きつつ、山を立てながら、色々なことをクリアしていく感じで動いていた気がしますね。」とこうじさんはおっしゃっていますが、COにおける戦略の考え方をよく表しています。「望んでいるものを得るために、持っているものを必要なものに変えること」これがCOの戦略における考え方の大元にあります。刻々と状況が変わる中でゴールを設定し直し、使えるものを使って走り抜けていく臨場感が戦略には必要なのです。

最後に
9月12日 – 13日にそんなCOを学べる2日間のワークショップがあります。実践しながら学びますので、2日目を終える頃にはこの記事のこうじさんの実践がまた違って読めると思います。もしよかったらこちらもチェックしてみてください。なお、早割が8/7と迫っておりますので、お早めのご決断をお勧めいたします。
http://communityorganizing.jp/workshop/2ndonlinews/

(理事 荒川隆太朗)

「NPOの理事はコミュニティを代表する」(あだにーコラム#2)

みなさん、こんにちは。
COJの3代目代表理事、安谷屋(あだにや)のコラム2回目です。

今日は、COJの4期理事会のメンバー紹介をしたいと思います。ホームページのメンバーページも更新しましたのでご覧ください。

地域やテーマごとのコミュニティを大切にしたい

COJの事務所は東京のJR新橋駅から徒歩5分ほどのところにあります。そこを拠点にしてはいますが、常勤は私と松澤の2人(現在、新型コロナウィルス感染症対策として原則在宅勤務中)だけ。一緒に活動するメンバーやコミュニティは全国にあり、そして理事メンバーの中には海外在住者もいます。そういうコミュニティを守れる理事会ってどんな形なのだろう?

2020年2月から理事改選の準備を始め、団体立ち上げ期に事務局次長として関わり、昨年ビジョン・ミッションをリニューアルする際にもコミットしてくださった大津真一さん、今回の理事メンバーの1人でもあり、団体立ち上げ前のガンツ博士によるワークショップから参加している葛巻徹さんのサポートの下、目指す理事会の形を探ってきました。その議論の中で初代代表で理事の鎌田華乃子さんが「NPOの理事はコミュニティを代表するもの」と話しました。それが、なんとなく私が「こうだったらいいな」と思う形を言い表したような気持になりました。

地域コミュニティとしては、東北(岩手を中心に福島、宮城)、関西(京都を中心に大阪、滋賀)、九州久留米(福岡県久留米市中心)の3つが、昨年久留米市でのスノーフレーク祭を成功させ、相互のつながりも強まっています。そのコミュニティの声を代表する存在として、前述の葛巻さん荒川隆太朗さんが理事を引き受けてくれました。

東京を中心とするコミュニティでは20代のメンバーが増え、若い世代が活動の中心に目立つようになってきていることは私たちにとって大きな希望で、その若手メンバーを代表するのが久保田裕輝さん荒川さん

自らも団体を主催しながら、社会のニーズに敏感で新しいものを生み出し、COJでもストーリーの力を多くの人に知ってもらおうと「パブリック・ナラティブ・フェス」を主催したり、力をつけるための「ストーリー・コネクト」というストーリーに特化したトレーニングを始めたりして、コミュニティ・オーガナイジング(CO)の価値をより多くの人と共有することにコミットし続けている笠井成樹さんが副代表理事。

3期からの再任である鎌田さんは現在ピッツバーグ大学で研究をしながらということもあり、学術的側面やCOが生まれた米国の最新情報を、松澤桂子さんはCOJのワークショップ実践伴走事業の中心で走り続けてきた経験やつながりを、依田純子さんはシンガポールを拠点に東アジアのリーダーシップ教育に取り組んでいる中での学びを、山本佑輔さんは企業での人事業務や研修業務でのスキルや知識を、それぞれ活かす2年間です。

9人という、リーダーシップチームとすると少し大きい印象かもしれませんが、ワークショップの「チーム構築」の講義でドリームチームと胸を張って紹介できるような、また「希望に満ちた社会」に近付ける実践を積み重ねられるようなチームを目指して、走り始めたところです。

「希望に満ちた社会」への第一歩

COJの活動の目玉は毎年開催している主催ワークショップです。今年はオンライン開催への舵を切りました。2020年3月にストーリー・オブ・セルフに特化したオンライン・ワークショップを初めて実施し、そこからパタゴニア日本支社との共催ワークショップ慶應義塾大学リーダーシップ基礎講座でのパブリック・ナラティブ講座などもオンラインで対応してきました。

積み重ねてきた学びや気づきが、9月12、13日のワークショップでは、随所に活かされ、オンラインだからこそできるコミュニティ・オーガナイジングの実践につながる場を作れると考えています。

【第2回オンライン】COJ主催コミュニティ・オーガナイジング・ワークショップ
※8月7日まで、早割価格でお申込みいただけます。

とは言え、

・2日間もオンラインでワークショップ参加とか、想像できないよ…
・グループワークとかほんとにできるの?
・オンラインに慣れていなくて不安

などの思いがありますよね。そんな方のために、オンラインワークショップ不安解消相談室を開設します。8月1日(土)21:00~21:30です。私、安谷屋と荒川がお待ちしておりますので、ご活用ください。お申込みはコチラから。

「希望に満ちた社会」に近づいていくためにも、一人でも多くのみなさんと一緒に、学びの場を作りたいと取り組んでいます。

2020年7月31日(金)安谷屋貴子


  • COJの
    vision:仲間と一緒に変えていく、という希望に満ちた社会へ
    mission:人々のパワーで変化を起こす手法と勇気を届ける
  • 感想やコメントなどありましたらぜひ、私へのメール(email hidden; JavaScript is required)などでお寄せください。
  • COJは主催事業(主にワークショップ)と委託事業(ワークショップや社会へのアクションの伴走・サポート支援)を行っていますが、みなさんからの月額寄付/スポット寄付によって支えられています。寄付を通して一緒に社会に希望を届けましょう(こちらからご寄付いただけます)。

【COJ共催イベント情報】8/1 21:00 差別について話してみよう 〜知る・気付く〜

人種差別、性差別など様々な形の差別があります。日本で差別について話すことは、なかなかハードルが高いのではないでしょうか。

差別とはなにかよくわからない、自分自身も加害者になるかもしれない、叩かれるかもしれない。けれども、無視していても状況が良くなることはない。やはり話すところから始め、差別を見つめ、取り組んでいかないと無くならないものだと思います。そこで、差別について知る、気づくきっかけになればと思い、イベントを企画しました。ストリーム料金500円のみご支援いただいています。

主催
Girls in Tech – Japan(技術系女性を生み出す団体), B-Leap(多様なバックグラウンドをもつ女性を支援する団体), Women In Music Japan(音楽分野で活動する女性支援団体)

共催
一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション, 特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン

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「希望に満ちた社会」に近づくために(あだにーコラム#1)

みなさん、こんにちは。
2020年6月20日にCOJの3人目の代表理事になりました、安谷屋(あだにや)です。

1人目は団体創設者であり、ハーバード大学の大学院でのガンツ博士からの学びを意思を持って日本に広めよう!と一歩を踏み出した鎌田華乃子さん。2人目は、アメリカでオーガナイザーとして働いた経験を持ち、社会福祉を研究し大学で教えていて、日本の社会福祉にコミュニティ・オーガナイジング(CO)をもっと活用しようと取り組み、共同創設者でもある室田信一さん。

今日は、私のことを少しと、これから1~2週間に1度のペースで綴っていきたいコラムのタイトルについて書こうと思います。

私のことを少し

2013年12月から私は福島県双葉町で復興支援事業の1つとして町のコミュニティ支援に従事しました。原発事故で全員が町外に避難した町と町民、町民同士、また町民と避難先コミュニティそれぞれをつなぐことがミッションでした。誰もが未経験の事業に取り組むために参加した研修プログラムに、COJのワークショップが偶然組み込まれていたことが、私とCOJとの出会いです。

ワークショップの中でジェームス・クロフトさんが「自分がゲイであることを公にしなかったことで、同じように性について悩みを持つ子どもたちからロールモデルを奪ってしまった」と語る動画を見たとき、事実や経験は違うけれど「私の話だ」と感じ、社会やコミュニティに違和感や不満を感じても何の行動もしてこなかった自分を責め、後悔しました。でも、COがその方法かもしれない、これだ!と直感的に思いました。今もその思いは変わっていません。むしろ関わることで強くなっています。

コラムタイトル「『希望に満ちた社会』に近づくために」

さて、コラムのタイトル「『希望に満ちた社会』に近づくために」ですが、書くことを決めたのは特例NPO法人Gift主催の「寄付体験をデザインする『ファンドレイジングデザイン講座』」に参加したことがきっかけです。その中で次の内容が印象に残りました。

利益追求がミッションである株式会社と違い、NPOなどは何に価値を見出しているのかを自らが言い切らないと、活動が形骸化していく(何をめざしているか見失う)。その価値を表したビジョンとミッションを持ち、ミッションに対する進捗を社会に対して見える化する(伝えていく)ことが求められる。

どんな社会にしたいのか、どうして私がそう思うのか、それを誰とどんな風に実現したいのか、それに対して今私たちはどこにいるのか。独りよがりでなく、一人では小さくても、集めれば大きくなるコミュニティのチカラで目指す社会に近づいていこうとするなら、何よりも大切なのは「伝えること」だと思いました。

私たちCOJは、伝えることがまだまだ下手です。2013年に華乃子さんを中心に活動がスタートし、2014年に団体を立ちあげ、日本で4,000人余りのみなさんと一緒にCOを学んできました。地域やテーマごとにCOを共通言語としたコミュニティができています。2019年9月にはキャンペーンを実施して、マンスリーサポーター(月額寄付会員)のコミュニティもでき、私たちの大きなチカラの源となっています。その大切な一つひとつのコミュニティ、そのコミュニティのメンバーお一人おひとりを思い浮かべるような思いで、これからこのコラムを綴っていこうと思います。

COJのvision:仲間と一緒に変えていく、という希望に満ちた社会へ、mission:人々のパワーで変化を起こす手法と勇気を届けるに照らし、進めている事業の効果や関係人口の変化やコミュニティの行動変容などについて、少しずつでもお伝えしたいです。みなさんと一緒に「希望に満ちた社会」に近づいていくために。

2020年7月24日(金)安谷屋貴子


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