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2020年08月05日
コロナ禍の私たち~コミュニティ・オーガナイジングはどう活きたのか~第3回:中山友里×武田緑

今年2月27日、安倍首相から新型コロナウィルスへの対応として全国の小中学校に対して「一斉休校」が要請された。そのニュースを見て最初に思い浮かべたのは、夫婦とも教師で3人の子どもを育てる友人の顔だった。直感的に「無理がある」と思った。

中山友里さん(ゴンちゃん)から「学校休校関係で、なんかキャンペーンはじめてる動きってありますか?」というメッセージを受け取り、面識のなかった武田緑さんと3人でまず話そうと、zoomでミーティングをしたのが2月28日の16時過ぎで、Change.orgで署名を集めるキャンペーンをすることがその場で決まった。

なぜ私たちが動いたのか。すぐに動けたのか。動いた結果をどう受け止めているか。キャンペーンから5カ月ほど経った8月1日、安谷屋(あだにー)がゴンちゃんと緑さんの2人に改めて聞いてみた。

【この記事は約10分で読めます】
– 目次 –
1、署名集めキャンペーン概要
2、なぜすぐに動けたのか
3、署名で空気を作って地域ごとのチャレンジを後押ししたい
4、「正しさ」は人によって環境によって違う
5、やってみて見えたこと
6、COJのオンラインワークショップの希望

 

キャンペーンページはコチラ

1、署名集めキャンペーン概要

  • 目指したこと:2月27日、政府による突然の全国一斉休校の要請、休校措置によって危機・窮地に立たされる子どもや保護者のために、休校期間の短縮、子どもたちの居場所と食事の確保、要支援家庭・児童へのアウトリーチ支援、これらのための財政措置を国などに求める署名を多く集め、地域コミュニティ単位での具体的な動きを後押しすること
  • 期間:3月2日スタート、12日文科省提出、26日終了
  • 集まった署名:18,455筆(12日は3月11日までに18,014筆を提出)
  • 得られたこと
    署名による「思い」の可視化:「このままではまずい!」と思っても出口のないまま黙ってしまうことが多い中、署名をすることで行動できるチャンネルを1つ示すことができた
    可視化された声に共鳴して、アクションが生まれたり、
    「勇気づけられた」との声が届いた:滋賀県で学童を再開させることを署名集めで実現させることにつながった。要望書やプレスリリースのテンプレートを作って公開した
    文科省の方と直接お話し、現状を伝えることができた:特にアウトリーチが必要な人の存在について、自分の経験を踏まえて「具体的に人が死にます」と緊急性を伝えた。それに対して社会的養護の子どもたちへの給付金の政策策定に関わったという、担当者の方ご自身の経験を踏まえて、アウトリーチの必要性がわかるとおっしゃっていただけて、同じ景色を見ていると感じられた

2、なぜすぐに動けたのか

ー(あだにー)動き出しがすごく早かったと記憶しているけれど、どんな経緯だったっけ?

(緑)ゴンちゃんと他何人かで「何かできひんかな?」って話し始めた。
(ゴン)そうそう。「(この動き)なんか変だよね」というところから何かやらなきゃいけないと。
(緑)いろいろやり得ることがあると思うけど、公的にサポートする動きを作り出す必要があるから、署名集めかな?という流れだった。

ー(あだにー)なるほどなるほど。その話の流れでゴンちゃんが私に声をかけてくれたのはどうしてだったの?

(ゴン)ちょうどCOJのワークショップが予定されていて、私はコーチ(※1)として、緑は学び直しのために2度目の参加をそれぞれ考えていたときだったし、「キャンペーン」ならCOJかなと。動いている人がいるならそれに乗っかって大きな動きにできないかと思ったが、その動きを自分では探せなかったので、あだにーが一斉休校についてSNSに投稿しているのを見て、「何か動きありますか?」と聞いた。共感してくれそうと思った。
(緑)広く声を集めるというよりは小さい力で大きな動きを作れるような、声をあげられるプラットフォーム作りを目指した署名集めだった。

ー(あだにー)私と緑さんは会ったこともなかったけど、違和感なく一緒に動き出せたよね。笑

(緑)COJの人、ゴンちゃんが言う人なら大丈夫だろうと思った。
(あだにー)ゴンちゃんとの関係性はもちろんだけど、緑さんがコミュニティ・オーガナイジング(CO)やCOJをどう捉えていたから「大丈夫」だったんだろう?
(ゴン)イデオロギーみたいなものが運動していると派閥化しがちだけど、COJはそういう意味では新しい団体だからどのイデオロギーにも別に染まっていない。キャンペーンをしたい人のためにツールを提供している団体だからじゃないかな。
(緑)それはある!私は変に色が付くことは警戒するタイプ。COJは偏っていない。昔ながらの運動は思考停止状態でシロクロはっきりしているものが多いけれど、そういう感じではないという安心感があった。

ー(あだにー)署名集めにCOのメソッドやCOJのリソースが活かされるという意識はあった?

(ゴン)やりやすいアクションとして署名を集めようと思ったとき、ナラティブ(※2)の見せ方は重要。その(ナラティブをより訴えかけるものにするための)コーチングやそれで(署名が)広がるかどうかの視点は必要だから、(あだにーが入ることで)CO視点が入ることは心強いと思っていた

3、署名で空気を作って地域ごとのチャレンジを後押ししたい

ー(あだにー)キャンペーンを進めるに当たって意識していたこと、目指していたことを改めて思い出すとどんなことがあった?

(緑)国や自治体に対して全体的な働きかけとして署名があって、それを見た人が自分の周囲の地域やコミュニティで動けるようなことを目指した。伝播して同じような署名が立ち上がったり、そういう動きをする人たちと連携できたりするイメージ。滋賀県の学童の指導員さんたちが動いて、実際に学童を開けることができたという、具体的な成果を生むことができたが、そういうのを増やしたかった。
(あだにー)うんうん、そういう他の人、地域の動きをマネして広がる、横展開をイメージしていたよね。
(緑)そこまで広がりきらなかったとは思っているけど、それを意識していたから、プレスリリースと要望書のテンプレートを公開した。

ー(あだにー)細かい話だけれど、文科省に署名提出のアポを取る手順とかも、シェアしたいって話したね。

(緑)署名賛同人の中に、文科省が普段お世話になっている人が含まれていると話が進みやすいのは確か。

4、「正しさ」は人によって環境によって違う

ー(あだにー)コロナ禍で何をするにも怖さがあることも、広がらなかった要因の1つだったと思うけれど、不確実性が高い中で動き出すには何が必要なんだろう?

(ゴン)コミュニティかなと思う。コロナウィルスの感染が拡大する中で、休校をやめることがゴールかどうかもわからなかった。実際、高校生たちから「休校にして。安全を守って」という署名が立ち上がっているのを見て、正しさが人によっても環境によっても違うと実感した。いろんなリソースのある人は「学校に行かない」ことを選択しても問題ない。でも私たちがあのキャンペーンでしたかったのは、(子どもが)学校に行かないと親が働けない状況の人たちがいることへの理解を広めることだった。(今学校に行くことは感染の危険があるから)行きたくない人が行きたくないと言えたり、学校に行くことでセーフティーネットが保たれている人が、学校を再開してと言えたりすることに、一人じゃないと思えるコミュニティがあったり、そこにつながるためのツールが必要だとは思った。

(緑)私は、見通し。こういう風に動いたらこんなことが起こってこんな感じで進んでいくんだなという見通し。初めての人はみんな持っていない。私は署名立ち上げと拡散までのイメージは持っていたから「それなりの数が集まるはず」という見通しは持てていた。記者会見をあのときようやらんかったのは、見通しが持ちにくかったから。最初からは難しいが、少しずつやってみる中で想像がつくようになったらチャレンジできる。最初はコミュニティやチームの端っこにジョインしてみるような機会、経験がたくさんあるといい。

(ゴン)コロナ休校によって子どもと過ごす時間ができて良かったという声もある。子どもが何人いるかだけでも違う。持っているストーリーが違うから正しさが違う。

5、やってみて見えたこと

ー(あだにー)キャンペーンをした経験は何かにつながっている?やってみてよかったと思うことはある?

(ゴン)直接提出に行けたのは良かった。メディアに注目してもらうためのやり方や提出後の動きなど改善点、やり直せるならこうしたいというのが浮かぶのはそこ。

(あだにー)直接文科省の担当者と話せたのは私も意味があったと思った。担当者にも経験に基づいたストーリーがあって、そういうのを聞けると、ただ批判するというスタンスから、どう一緒によりよくできるかという考え方に進める実感があった。やることに意味があるね。

(ゴン)ある程度オーガナイザーのような人が出てくるのが重要なのではないか。世の中に政治家しかいないから政治家に陳情しに行って、道路やダムを作ってもらう。そういう手順を企業は知っているから談合しても何をしてもその道を行く。でも市民にはその道が見えないし知らないから声があがらなくて動きも生まれない。それを変えるためには、声のあげ方を教えて一緒に動くオーガナイザーがひょっとしたら必要なのではないかなと思う。
(緑)そういう風に方向性を教えてくれる人や、ぺらっと1枚にまとまっているマニュアルなどは動き出すときの力になりそう

(緑)あともう一つ!賛同人を多様な分野からたくさん集めることはできてよかった。リソースが活きたし、文科省提出の際にも功を奏した。

6、COJのオンラインワークショップの希望

ー(あだにー)これから学ぶ人にどんなことをオススメしたいですか?

(ゴン)具体的に変えたいこと、起こしたいアクションがある人にとっては(COのどのモジュールも)使える要素。戦略の立て方、チームをどう作っていくのか。ただノウハウを伝えるだけではなく、小手先でやろうということではなく、どうやってほんとうに物事を変えていくチームや力になっていくのかを学べるという点ですごく意味がある。
(緑)何か変えたいと思ったときに、変えられる気がしない。道筋が見えなさすぎてちっともわからないことってある。社会全体に関わる大きなことではなくても、自分の地域や学校の中でCO的エッセンスで物事を変えたぞとか、新しい仕組みを作ったなどの実践が普通にたくさんあるといい。それがまだあまりない中で、体系化されていて具体的にやりかたを学べることがとてもいい。ちょっとずつ練習する。アメリカの大学ではそうだと聞いているが(※3)、小さなことからコミュニティをベースに練習できるのがいい

(緑)COでつながるオンラインのコミュニティができることは可能性がありそう。オンラインだと日々進捗共有したり、進捗をみんなで支え合うことができる。おさらいしたいときに、自分のプロジェクトを回している人同士で話せるコミュニティ。そういう感じになりそうだったらぜひ入りたい。

(あだにー)コロナがしばらく続くだろうというときに、人と人が会わないと力が生まれないと考えている人が、オンラインワークショップで何かを見つけてもらえたらいいと思っている。日本で何かにチャレンジすることは勇気がいるし心が折れやすい。応援し合えるコミュニティの可能性は大きい。気持ちも前向きになる。そういうことを意識してコミュニティづくりをしていきたい


40分ほどのインタビューを「久しぶりに会えて話せて良かった」「落ち着いたら会おうね」「いつ落ち着くんだろうね。でもほんとに会おうね!」と、清々しく終えた。

短い時間に大事なポイントがたくさん詰まっていたので、こぼさないようにまとめておこう。

▼Column:ベースはストーリー。経験が見通しを生み、見通しがないときに求められるのはオーガナイザー。そしてプロジェクトを実践している人同士のエンパワメントの有効性

1、ストーリーによって人は動く
私たちのキャンペーンのベースにあったのはゴンちゃんのストーリー(ナラティブ)。キャンペーンサイトにも載せたし、文科省での提出の際も語った。自分の経験があるから具体的に困難に直面している人を想像できる。ストーリーを聞いた人もその人なりに場面を想像できるから何とかしなきゃと思う。改めてストーリーの大切さを実感した。

2、不確実な状況で動くために必要なこと
たった一人で声を挙げたり動き出すことは怖い。一人じゃないと思えるコミュニティやそこにつながれる扉が必要。その上で動き出すためには動いた先の世界を描ける戦略があって、それを成功させられそうな経験に基づくある程度の見通しが立てられるかどうか。怖さや不安(心)、戦略(頭)、経験(手)の視点を持って導くオーガナイザーも必要。

3、プロジェクトを実践する人同士のオンラインコミュニティの可能性
体系的に学べること、ただノウハウのインプットがされるのとは違って、ほんとうに変化を起こすためのチームや力をどう作るのかをワークを通して学べることの意味は大きい。そして今回はオンラインだからこその可能性が見えた。社会に対してアクションを起こすことは勇気が要るし、続けることも難しい。それを支え合えるコミュニティが作れたら、私たちCOJが目指す「希望に満ちた社会」に近づく大きな一歩になりそうである。

最後に
そのオンラインワークショップが9月12日 – 13日にあります。2日間を通してその後のつながり、コミュニティ作りにもチャレンジしたいです。ぜひ一緒に学び、つながりませんか?もしよかったらこちらもチェックしてみてください。なお、早割の締め切りが8/7と迫っておりますので、お早めのご決断をお勧めいたします。
http://communityorganizing.jp/workshop/2ndonlinews/


※1:COJのワークショップでは6人程度のグループワークを取り入れていて、1グループに1~2人の「コーチ」というファシリテーターがワークをサポートする
※2:ナラティブとは物語を指す言葉。「どうして署名を集めたいか」を論理的に説明するのではなく、経験を語ることで読み手の感情に働きかけられる語りを、COJではワークショップ等でよりよくするためのコーチングを行っている
※3:COJはハーバード大学の大学院のマーシャル・ガンツ博士が体系化した学びをベースに活動している。ガンツ博士の大学院の講義は、実践の課題が出て、学生は実践しながら学ぶ

(代表理事 安谷屋貴子)