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2020年08月01日
コロナ禍の私たち~コミュニティ・オーガナイジングはどう活きたのか~ 第1回:山口浩次

関西でコミュニティ・オーガナイジング(以下、CO)を広げている人を思い浮かべる時、僕はまずこの人の顔が浮かぶ。

山口浩次さん。

僕たちはこうじさんと親しく呼ばせていただいているが、大津市社会福祉協議会で30年勤め、現在、事務局次長という立ち位置から組織全体をマネジメントしている。以前、彼と一緒に大津市を歩いた時、道すがら「山口さん、お疲れ様です!」と何度も街の人に声をかけられたことがあったほど、地域にしっかり根を張りながら活動をされている。

誰もが激動を感じているこの時代にこうじさんは何を見据え、どう動いたのか、少しでも聞けないかとインタビューをさせていただいた。これからCOを学ぶ人がその可能性を見出せることを願って。

【この記事は約10分で読めます】
– 目次 –
1、大災害の幕開け
2、スローガンの価値 – 「柔軟に、スピード感を持って、正確に」 –
3、市民を置き去りにしない社協職員の『こだわり』
4、連携を運動に変える仕組み
5、関係構築を続け、采配し、戦略を更新し続ける
6、最悪のシナリオと残された希望

大災害の幕開け

ーこうじさん、忙しい中、急なご連絡にもかかわらずありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。

いえいえ、たまたま空いてました。こちらこそ、よろしくお願いします。

ー早速ですがコロナ禍ではどのように動いておられたのですか?

そうですね。まず、事業の見直しが迫られました。業務継続計画(BCP)を書き換えましたね。これまで、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震の応援に行った時のことも思い出し、これは大災害になる入り口だと思いました。そこで、平時の対応から災害対応する社協に活動を変える必要がありました。

ー具体的にはどう変わりますか?

大きな違いは平常時は活動を予想通りに進められるので自分たちの戦略で活動ができます。しかし、災害時は予期せぬことが起こるので随時、戦略を変えていく必要があります。

そして、これが大事なところですが、戦略を実行するのは組織なので組織論が必要です。職員55人の一体感が必要です。まずは管理職6名もそうですし、トップ、つまり会長まで含んだ全体の一体感を作っていきました。

ーなるほど。そんな中の実際のエピソードを教えてください。

そうですね。当初感じたのは大災害の幕開けということでした。日常の事業計画から優先しないといけない業務とそうでない業務の仕分けを行う必要がありました。本会の業務継続計画(BCP)は、地震と豪雨を想定していたので、パンデミックには備えていなかったんですね。

緊急だったので、今回のコロナ禍における業務継続計画の書き換えを幹部会議で提案しました。各5人のリーダーには、4月当初の3日で提出してもらいました。そうして出てきた業務継続計画を精査して、今どうしてもやらないといけないことを3つに絞りました。

1つ目は給与管理や勤怠管理の総務部門。2つ目は、認知症や障害を持っている人の金銭管理の部門。3つ目が、国の施策であるコロナ禍の特定貸付の業務です。

ー特定貸付の業務というのはどういったものでしょうか?

いわゆるコロナ貸付というやつで、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、収入の減少や休業等により生活に困窮し、日常生活の維持が困難となっている世帯への貸付業務です。国のコロナ緊急対策に位置付けられた事業で、各都道府県社協が実施主体となり、市町社協が受付窓口を担っています。特例貸付には、2種類あって、小口資金は、10万円から20万円を1回のみ借りることができ、無利子で、1年後から返済が開始され、返済は2年間です。もう一つが、総合支援資金です。月に15万円から20万円を借りることができて、無利子で、1年後から10年間をかけて返済をするものです。

スローガンの価値 – 「柔軟に、スピード感を持って、正確に」 –

ーなるほど。まさにコロナ禍にしかない業務だったということですね。

はい。普段から貸付業務の担当者はある程度うまく対応できるのですが、コロナ禍の業務見直しによって、部門間連携による応援メンバーは普段馴染みのない業務なので、対応はかなり大変でしたね。さらに、特例とついているように今までの貸付業務と全く異なる仕様なんですね。保証人が不要であったり、郵送での受付が可能であったりと、緊急性が伝わってくる仕様でした。特例であることが、日頃貸付を担当する職員を混乱させました。しかも、連日マスコミで特例貸付の宣伝が進み、国からの文書も何回にも分けてだされました。

ーおぉ、二重苦、三重苦って感じですね…。どう乗り越えはったんですか?

本会では、毎日、特例貸付の担当者の反省会をしていました。その際、3つの言葉が生まれました。一つ目は柔軟に対応しようということです。綿密でなくていい。今多くの人が困っている中なので、この制度を柔軟に運用して、利用者に使いやすいものにしようということです。二つ目はスピード感を持っていくことです。困っている人は日々困っているので、今すぐに支援が必要ですからね。3つ目は正確にやろうということです。焦って処理を間違えると結果的に利用者にお金が届くのが1週間程度も遅れてしまう。

この「柔軟に、スピード感を持って、正確に」を事務所に張り出しました。このスローガンを大きな指針にしつつ、業務にあたりました。これは熊本での災害支援の経験が活きました。

私が、熊本県大津町の災害ボランティアセンターに入ったときに、続々と新しい社協の職員が近畿や九州各地からやってきました。新しく応援に来た職員に対して、大津町の災害ボランティアセンターの理念を表した言葉を作ろうと考えました。毎日の反省会を通して、私が考えたのは、「がれきを見ずに人を見る。俺たちが何とかしたいのは人だ」という言葉です。大津町のセンター長は、熊本弁に直して、「ガレキを見らんで人ば視る。おったちが何とかしたいのは人たい」と言うスローガンになりました。このスローガンで新しくボランティアセンターに応援に来た職員にセンターの理念を伝えることができたようです。

※写真は実際に熊本で掲げられた当時のもの(提供:山口浩次さん)

ーおおお、なるほど。シンプルに目的を伝えられるから人が動けるようになるわけですね。現場で動くための指針としてはこのくらいシンプルであることが重要なのかもしれません。対照的にこうじさんと同等、あるいはそれより上の役職にある管理職に人たちにはどのように関わったのでしょうか?

私たち幹部4人は、コロナ禍の特例貸付の職場での対策をどうにかしないいけないと思っていました。私は、この現状を乗り切るためには幹部の4人が一枚岩にならないと乗り切れないと感じました。毎朝、朝礼の後の幹部ミーティングでは今日起こること、今週起こること、昨日起こったことを共有するようにしました。

私は、ミクロ、メゾ、マクロの視点を常に意識していました。ミクロは、今回の場合は現場での特例貸付の業務のことです。メゾは、特例貸付を対応する職場の仕組みや組織体制のことです。マクロは、特例貸付の厚生労働省の制度設計や全国社会福祉協議会の仕組みのことです。そうした3つの観点で見ると、トップマネージメントは、多角的な視点が求められることが分かります。こうした視点をもって、提案するのも私の仕事でした。

もちろん、私が毎日の幹部ミーティングで、局長、次長に伝えたのは現場で起きた10の出来事のうち、報告が必要と思われる1つか2つの特徴的な事案でした。また、特例貸付の現場担当者は、毎日の反省会をホワイトボードに記録して、毎日の動きを見えるようにしてくれていたのも助かりました。

市民を置き去りにしない社協職員の『こだわり』

ーなるほど。組織の内部での激動の様子が臨場感を持って伝わってきました。しかし、同時にそんな中でもマスク作りのプロジェクトや大津市民病院応援プロジェクトを立ち上げられ、市民の皆さんへのアプローチも欠かされていなかったと聞いています。それだけの忙しさの中でなぜそこへアプローチされたのですか?

特例貸付業務を行う中で見えてきたのは、この業務だけでは市民には今起きていることを伝えられないということでした。そして、どこかの段階で必ず市民の力を借りる必要が出てくるはずだと思っていましたので、市民をちゃんと巻き込んで、市民のモチベーションを上げる必要があると感じていました。

しかし、傾聴ボランティアや、民生委員、学区社協などの普段のボランティア活動は、コロナで人が集まれないので、活動ができません。そこで、とにかくステイホームをしている人たちにマスクを手作りで作ってもらって、福祉施設に届けることを提案しました。

というのは、ボランティアをその気にさせるのが得意なボランティアコーディネーターが在籍していました。そのコーディネーターに提案したら次の日には、『コロナに負けないゾウ』のチラシをしっかり作ってくれました。私は、マスクの生地を大量に買って、コーディネーターにお渡ししました。すると、コーディネーターのマッチングのおかげで、2か月のうちに市内外のボランティアさんたちから2500枚を超える手作りマスクが送られてきました。

嬉しかったのは緊急事態宣言の時にボランティアが生き生きしたことです。これはなんとかしたいと思う人たちの心と現場のニーズを繋げた一つの事例だと思います。

ーなんとかしたいと思う人たちと現場のニーズを繋いでいくと簡単におっしゃっておられますが、緊急性が高く、先の見通しが立たない中でなかなかできる判断じゃないですよね。市民病院のほうはどうでしょうか?

当時、大津市社協にはN95の医療用マスクがあったんです。一年前に、業者から寄付でいただいていたものです。当時、福祉施設にも希望を募って配布したのですが、使われなかったマスクが本会の倉庫に約5000枚あったんですね。

そのことを会長に伝えたら、会長の判断で今、マスクを一番必要としているのは病院だろうということで、県の感染症対策病院に指定されている大津市民病院にご連絡して、2000枚ほどマスクを差し上げました。必要な時に困っている人にものを送ると喜ばれるということを感じましたね。その時に、市民病院から、職員が疲れているので、精神的な応援がほしいというSOSを、会長を通じて、受け取りました。

そして、これをきっかけに大津市民病院応援プロジェクトが立ち上がりました。私たちは支援者を支援することを普段から掲げているので、市民病院の応援を始めました。当時は手作りのマスクを贈ったり、医療用ガウンの代替としてレインコートを贈ったりしました。

そんな中、市民病院が、医療用の機械の購入のためにつけていた150万円の予算が消毒やマスクなどで厳しくなったので、6月に150万円の寄付プロジェクトを立ち上げました。民生委員や、地元の祭りの実行委員会の協力があり、現在、約100万円ほど集まっています。

連携を運動に変える仕組み

ー「ヒト・モノ・カネ」全部集めてますね。すごい市民力…。改めてですがなんでそこまで頑張れるんですか?

実は、本会の職員の圧倒的多数は疲れています。しかし、市民を巻き込むことで現場で頑張っている人がまた頑張れるようになるんです。そして、トップも取材や関係機関とのやりとりの際に前へ出るので、トップのモチベーションも上がります。すると、現場は上の人があれだけ頑張っているから頑張ろうとモチベーションが上がります。市民の力を借りるということは同時に自分たちが支えられるということでもあると思いますね。

ー視野が広すぎて、恐れ入ります…。ちなみに、この間、社協さんの間で連携とかはあったんですか?

そうですね。特例貸付が始まった3月末、あっという間に2週間先まで予定が埋まりました。そんな中、現場で「特例貸付をお願いします。」と来られた市民に、職員が「2週間後にもう一度来てください」とやりとりし、残念そうに帰る市民と、それを見送るやりきれない気持ちの職員の姿を見た時に、「このやり方は持たないな」と思いました。そこで、3月末の金曜日の大都市である堺市社協の課長に電話をして聞きました。すると、特例貸付は、予約制ではなく、郵便と来所相談で対応していると聞きました。郵送方式は、本会では全然考えなかった方法でした。次に寝屋川社協の課長に電話で情報交換をしたときも、感染対策として対面を避けるため郵送で対応していると聞いて、これだと思いましたね。それが3月末の金曜日の夕方です。土曜日に局長に連絡をして了解を取り、滋賀県社協にも連絡をして、郵送方式の了解を取りまし。早速、次の月曜日から、電話で、住所を聞いて、毎日約50件程度の問い合わせに対応をすることができました。

ーかなり効果的だったんですね。

えぇ、ただ、これだけだとうちの話で終わってしまいます。この時、「きっと全国の社協職員は困っているだろう」と思いました。これは今、全国のネットワークを作るタイミングだと感じました。そこで、寝屋川市社協の課長が関西社協コミュニティワーカー協会の会長だったこともあり、今こそ、全国の社協職員で、特例貸付を担当している管理職のネットワークを作ろうと呼び掛けたところ、10人くらいの全国の社協職員が、メッセンジャーでつながることになりました。

メッセンジャーのメンバー中には、厚労省の職員、仙台、宮城、京都、大阪、奈良、滋賀、鳥取のメンバーが入ってくれました。そして、毎日のように特例貸付の情報共有を行っていました。そこで得たことを大津だけで使っていてはもったいないので、滋賀県内の有志ネットワークやCOで出会ったメンバーとも共有をしていきました。

そんな動きが作れていくと、厚労省の方もおられたので、現場の動きが国の方向性を変えていくという流れになりました。例えば、当初、貸付には実印を取らないといけないということになっていましたが、次第に実印や印鑑証明がいらないという流れになっていきました。各参加者が、府県の意見を集約して、全社協、厚労省に働きかけるようなこともありました。やや大げさに言うと、メッセンジャーのネットワークが国の動きや全国の社協の動きを作っていくことができましたね。何よりも、各社協の現場で孤立しがちな管理職が、非常時に繋がりあえたことは、とても有意義なことでした。

関係構築を続け、采配し、戦略を更新し続ける

ーまさに運動という感じですね。ここまでの一連の動きの中で学んでてよかったと思えるCOの技はありますか?

つながる時に自分のストーリーを語ることを大切にしていましたね。短い時間で関係を作る必要があったので、シンプルに自分の想いを伝えられたのはよかったです。活動の中で堺市社協に電話した後に、熊本の応援に行った時の100人以上いるLINEグループに情報を流したんですけど一人も返事がなかったんですね。

改めて、一人一人と関係性を築いていない中では動いてもらうのは難しいと感じました。また、100人のLINEグループは人数が多すぎたのもあると思いますね。SNSでつながるなら多くて10人ですね。精鋭10人を集め、メッセンジャーで動かしていくことが重要でした。100人を一つのグループに集めるよりも、関係が構築できた10人のグループを10個作る方が大切だと今は感じています。

あとは…。

あっ、プロジェクトは全て戦略の考え方を大切にしていましたね。ただ、通常の戦略では、最終の目的から考えると思いますが、見通しが立たなかったので、大きな目標をたて、動きつつ、山を立てながら、色々なことをクリアしていく感じで動いていた気がしますね。

そうやって考えながら動いていくことで、コロナ禍の活動は市社協だけでは大変だなと気づきました。事務所の中だけでなく、社協以外の人たちの協力は絶対欲しいと思いました。そんな想いがここまでお話ししたような活動につながっていると思います。

ー本当にさすがです。伺っているとCOを学んだからできたわけではなく、こうじさんが日々の活動の中で「オーガナイザー」としての視点を磨いてこられた賜物でもあるのだなと感じました。特に、貸付業務が忙しい中、ボランティアコーディネーターの方を本来業務に戻したあたりなんかはまさに現場の采配ですよね?

まさしく、そう。

そのコーディネーターは、特例貸付の電話対応があまり得意ではなかったんですね。「自分は特例貸付の力になれていない」とつぶやいていました、それなら、地域でもんもんとしている市民ボランティアをコーディネートをしてもらおうと思えました。すると、先ほどお話ししたような結果につながりました。もしかしたら、そのコーディネーターは、最近のなかで最も輝いた瞬間だったかもしれません。

ー激動の中だからこそ人生にも強い影響を与えているわけですね。大津市社協は全社的にCOを学ぼうという流れがあったかと思いますが、チームでCOを学んでいたことの価値は感じましたか?

そうですね。COの研修を受けた中心メンバーが地域福祉課にいます。彼らが貸付業務に配置されたときに、業務のことは全然わからない中でしたが、チーム構築を意識してやっているように見えました。とりあえず今日は頑張ろうと声をかけ、チームの一員として何ができるかを考えてくれていました。

特にありがたかったのは特例貸付には小口資金と総合支援資金の2種類がありますが、地域福祉課のメンバーが小口貸付に関して相談から起案まで全部をやると手をあげてくれたことでしたね。あれはコロナ禍での、大津市社協のチーム力を高めた気がします。

また、一人一人が「私がやっている」と自覚していてくれました。相談支援課の課内ミーティングでは「それぞれがリーダーシップをとって欲しい。失敗したら謝るということでいい」と繰り返し伝えていました。

災害時、僕らがやってきたことでほんまにこれやなと思ったのは、それぞれがリーダーシップをとることなんです。災害時に限っては、それぞれが現場で判断をして、失敗したら謝る。上司にはその後報告することで十分だという裁量を与えることが必要だと感じました。

最悪のシナリオと残された希望

ーまさしくCOのリーダーシップの哲学である「責任を引き受けること。その責任とは先の見通しの立たない不確かな状況下で他者が目的を達成できるようにすること」と一致する宣言ですね。失敗していいからやってみなはれと背中を押してあげるというこうじさん自身のプレゼンスが出ている気がします。そんな大津市社協での取り組みですが、今後の課題や方向性はどのように感じていますか?

……。

そうですね…。

コロナの第二波、第三波がインフルエンザの時期と重なることを考えると、今年一年はコロナと共にあるだろうと見通しています。常々、職員にはその時何ができて、何ができなかったのかを記録しておくように伝えています。地域福祉をやっているメンバーにとっては今まで経験したことのなかったことを経験していますからね。記録と振り返りが大切だと感じています。

コロナ禍で、何ができて、何ができなかったのか、そこの振り返りが大切です。私は、今日も生活に困っている人の申請書を見ていました。状況はますますひどくなっています。その姿は肌感覚ですが、リーマンショックの時の10倍は大変です。

リーマンショック後はその立て直しのために生活困窮者自立支援法として子どもの貧困対策などの国の方向性が生まれました。それくらい大きな方向転換が必要だったわけです。今はその10倍の出来事が起こっていると言っていいでしょう。これからは必ず今までの社協活動のある部分はやめて新しい貧困対策をしていかないといけないと強い危機感を感じています。

具体的には、タクシー、観光、飲食、建築、音楽業界など私たちが今まで相談を受けてこなかった業界の人たちの給与が上がってこないというのがあります。そして、おそらくそんな方々が失業した時に、その人たちができる仕事はなかなかありません。確かに介護職は足りていないのですが、失業した人が介護職にうまく馴染めることでもないように感じます。その一方で生活保護をみんなが受けられるかというと持ち家、ローンがあり、生活保護を受けられない層も少なからずいます。

ー……。……。

私は、コロナ禍の困窮とその後の孤立が、自殺などの形で、大量に現れないかと非常に危惧しています。考えすぎかもしれませんね。私は書類でしか、市民の困りごとを見ていませんが、申請用紙を通じて嘆きの声が聞こえきます。

ー言葉を失いますね。なんと言っていいか。

誰も経験してこなかった大貧困社会が来ます。

住む場所、仕事など色々なミスマッチが起きています。社協は今こそ、これまでの活動内容や方向性を見直して、実際に自殺を食い止め、仕事探しや、仕事づくりをどうするのかを考えなくてはいけません。

また、現時点で、私たちが取り組んでいる課題もなくなるわけではありません。引きこもりの人たちがたくさんいる中でそういう方々の集いをどう作るのか?これからの時代にどう福祉を実践していくのかが問われています。それは今までの延長かもしれませんが、今までとは質的に異なるものです。

次の世代の人たちにはミクロ、メゾ、マクロの視点で動く私の背中を見せていきたいです。

ー希望はあるのでしょうか。9/12 – 13にCOJ主催のオンラインワークショップがあります。これからCOを学ぶ方へのメッセージをお願いします。

COはすごいです。COの理論、技術は是非とも必要です。これからどの分野で働くにしても起きていることを見立て、語り、力を合わせることは必ず求められます。COのスキルは社会運動に限らず、人生にとって大事なスキルです。

合わせて大切にしたいのはマネジメントの能力です。つまり、組織をどう運営するかです。マネジメントをしながら人を育てる組織マネジメントの能力が必要です。自分の食い扶持をしっかり作れないと社会運動は続けられません。

そして、それらを実践していくにはリーダーシップが必要です。COを学ぶことでスキルとしてのリーダーシップを入り口にして、今回のような、ここぞという時に、力を発揮できる人になっていってもらえたら嬉しいです。

ー力強いメッセージありがとうございます。お話しいただいたことは今後もみんなで考えていきたいですね。

そうですね。考えていきましょう。

ー今日はありがとうございました。


zoomの終了ボタンを押した後、焦点の定まらない目で青白い画面を見つめながら、こうじさんの言葉の一つ一つを反芻していた。

「がれきを見ずに人を見る。俺たちが何とかしたいのは人だ」

この言葉は強烈なインパクトを僕の胸に残した。

「理論だけを見ずに現場を見る。俺たちが何とかしたいのはそこで生きている人だ」

こうじさんの語りの中にはそんな臨場感を感じた。そうだ、その通りだ。絶望的な状況はきっと続いてしまう。だからこそ、諦めずに現場に臨む彼のような生き方が、それをみる誰かに希望を与える。

今日、僕が彼から希望を受け取ったように。

▼Column:コミュニティ・オーガナイジング(CO)からこうじさんの実践を振り返る

こうじさんの実践を振り返るポイントは以下の3つです。
1、短い時間で効果的に『関係構築』を行ったこと
関係構築のポイントは情報ではなく、価値観を交換することです。こうじさんは自分のストーリーを伝えることで、相手の想いも聴き、関係をつくっていきました。単純な情報交換では「いいことが聞けてよかった」で終わってしまいます。「一緒にやろう」というためには共有している想いを知ることが大切です。

2、適切に人材を配置し、『チーム構築』をしたこと
求められている役割とその人が得意とすることは必ずしも一致しないことがあります。その時に柔軟にチームの構造を変えていきました。そして、任せる時には大胆に作業ではなく、役割を任せていました。作業を任せるのは指示が伴いますが、役割を任せるには目的の共有が必要です。「もんもんとしているボランティアに輝いてもらう」そんなビジョンを共有することもリーダーシップスキルです。

3、変わり続ける状況の中で臨機応変に『戦略』を見直し続けたこと
「大きな目標をたて、動きつつ、山を立てながら、色々なことをクリアしていく感じで動いていた気がしますね。」とこうじさんはおっしゃっていますが、COにおける戦略の考え方をよく表しています。「望んでいるものを得るために、持っているものを必要なものに変えること」これがCOの戦略における考え方の大元にあります。刻々と状況が変わる中でゴールを設定し直し、使えるものを使って走り抜けていく臨場感が戦略には必要なのです。

最後に
9月12日 – 13日にそんなCOを学べる2日間のワークショップがあります。実践しながら学びますので、2日目を終える頃にはこの記事のこうじさんの実践がまた違って読めると思います。もしよかったらこちらもチェックしてみてください。なお、早割が8/7と迫っておりますので、お早めのご決断をお勧めいたします。
http://communityorganizing.jp/workshop/2ndonlinews/

(理事 荒川隆太朗)