ワークショップに参加した動機は?
社会福祉法人が運営する美術館のディレクターをしています。知的な障害のある人たちによる独創の美術(アウトサイダーアート)からプロ作家の作品まで、多彩な表現をボーダレスに紹介します。また、傷ついた子どもたちに造形あそびのワークショップを届ける任意団体の活動もしていますが、子どもたちの悲しみを減らすため、社会にどんな変化が必要なのかを日々考えています。
美術館での事業の中心は当然ながら美術作品の紹介ですが、その目的としては文化振興以上に社会福祉への貢献に重点を置いています。目的の中核は共生的な社会の実現です。
共生社会とはなんらかの「社会的マイノリティ」の立場にある人々のみに利益となるものではなく(子どもたちもまた自ら社会に対して声を上げることができず、こうしたマイノリティと非常に近い立場にあります)、あらゆる人々にとっての本質的な福祉の達成に必要不可欠な前提であると考えています。
このような認識が社会に普及し、「人がマイノリティの立場にあることによって社会から疎外されないこと」が広く一般的な関心事となり、その為のアクションに参加する市民を増やしたい。その際に、コミュニティ・オーガナイジングの手法はきわめて重要な効果を持つのではないかという期待から、今回の参加を希望しました。
ワークショップに参加した感想は?
ストーリー・オブ・セルフ…自分のルーツを語ることで他の参加者の皆さんと出会う。十年付き合った友だちにも一度も話すことがなかったかもしれない記憶を、今日初めて出会う人たちと共有しあう。そんなワークショップの導入に、まず新鮮な発見がありました。社会課題への挑戦の動機には、一人ひとりの痛みの記憶があるのではないか。一人の人の痛みの経験は、時として他の多くの人の痛みを取り除く行動を生み出す。そして多くの他者はその痛みを共感する力を持っており、そこからさらに多くの行動が生み出される可能性がある。人間には、こうしてよりよき存在となっていく原動力が内在されている。そのことを確認する発見でもありました。
そうやって出会った人たちとチームメートになり、一緒に擬似的なキャンペーンを創出していくプロセスの中、とても短い時間で「仲間」の一体感が生まれていく。どの人も世界をよりよくしていこうとしている人たち。この出会いの喜びも大きかったです。
今まで参加してきたワークショップとの違いは何ですか?
常に実践を念頭においたワークショップであること。成果を出すための、具体的で明確な前提条件が示されてあること。学んだ基礎をもとに、じつに多彩な実践への応用が無限に派生すると感じました。
コミュニティ・オーガナイジングを今後の活動にどう活かしたいですか?
自分の仕事領域で、エンパワメントされることで立ち上がることができる当事者たち(同志)とは誰か。ここに複数の可能性がありそうです。楽しそうで、社会に素敵な変化を生み出せる方法は何か、考えています。
たとえば「知的障害者」と呼ばれる立場にある人たちが、自ら社会に発信する若干のスキルと機会を得ることで、自身の人間性によって多くの人とつながっていくには。
あるいは子どもたちが自身の言葉で、行動で、大人たちにもっと思いや願いを届けるには。
もうひとつ。人間の社会に属しながら、もっとも発言と主張の機会を持たない様々な「どうぶつたち」の幸福を、人間社会の課題として多くの人の関心事とするには。