10月31日(土)、マーシャル・ガンツ氏の講演会が日本説得交渉学会、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティチュートの共催で行われました。COJは日本語解説(鎌田華乃子、佐野はるかが担当)と内容に関する準備で協力致しました。
当日は100名を超える方が参加くださり、ストーリーテリングを通じて発揮するリーダーシップ「パブリックナラティブ」を体系化したガンツさん本人による講演への関心の高さを改めて感じました。
以下は理事荒川による当日の様子のレポートです。
マーシャルガンツさん。僕は初めて、動く彼をみた。
というのは何度も写真で彼をみていたため、初めて彼を見た時、「本当に生きている人だ」と変な感慨が湧いてきていた。最初の挨拶、終わりの挨拶では「おはようございます」などの簡単な日本語を手元の紙を見ながら交えてくださった。
講座の途中もトトロを使ってくださるなど日本人と話すための準備を感じられ、とても親しみやすい空気に触れられた気がする。もちろん、ナラティブについて語る彼の空気は真剣そのもので、熱意を持って語ってくれたのがとてもよかった。
= 感情の言語 =
そんな彼の講義の中でも僕が個人的に響いたのは「感情の言語」という表現だった。WSを受講し、自分なりにナラティブを語る中で「何を語っているか」よりも「どういう気持ちが響き合っているか」が大事ではないかと感じていた。
うまく言葉では表現できないけど、相手とつながりを感じられるような語りというのがある気がしていた。そして、その感覚は「感情の言語」を通じてやりとりしていると捉えると胸にすっと落ちてくる。僕の解釈が多分に入るけど、日本語で言うなら「心を通わせる」感覚かなぁと。
ガンツさんは「感情の言語」の例に音楽をあげていた。例えば、ジャズ演奏なんかではお互いの呼吸に合わせて音を出して即興的に音楽を作り上げていく。ナラティブも同じように語りの中で即興的にお互いが感じていることを通じ合わせて関係性を築き上げていくみたいに。
言葉で記述することが難しいけれど、それこそ「感情の言語」の世界だからこその難しさかもしれない。ここはとても考えることが多かったので個人的ハイライトだった。
= 良質な質問 =
今回、オンラインで100名以上の方が参加されていた。随時チャットで質問を受け付けていたので参加者のその時々の質問を見られた。どれもぜひ聴きたいと思うものだったけど、全部は紹介できないので、一つだけ選ぶとしたら次の質問が一番興味深かった。
【質問】ソウルアリンスキーなどは「自己利益」に基づく組織化を伝えています。自己利益に基づかない運動に人は長く関われないからです。一方、ガンツさんは価値観にもとづく組織化を伝えています。自己利益か価値観か、これは関連しているのか、考え方の違いなのか、どう考えたら良いでしょうか。
すごい深い質問でビビりましたが、ガンツさんは次のような感じで答えていた。
もちろん、自己利益は大切。それぞれ興味を持っているから。だけど、自己利益での組織化では対象が狭くなりすぎて大きな組織化につながらない。環境問題でもテーマごとに自己利益がある。テーマだけで組織化するのではなく、自然が大事と言う価値観で組織化することでより多くの人たちを組織化できる。
ん〜。ちょっとまだわからない!ということで終了後に追加で聞いていただいたところガンツさんから追加のお返事がいただけました。
色んな団体の連合体が崩れるのは、往々にして価値観が重なるところを考えず、それぞれの関心だけを追ってしまうから。対立したり、自己利益が異なる人々の間で価値観がばっちり合う必要はない。でも5%でも価値観があうところをみつけられたら、そこを土台に深い関係を築いていける。
ガンツさんは冒頭リーダーシップは他者との相互作用だと語っていた。5%でいい。とにかく基盤となる価値観を見出していくことが繋がり合うためには必要と言うその姿勢にこそ、オーガナイジングにおけるリーダーシップの本質があるような気がする。「あいつは反対派だ」「この人は賛成だ」など、それぞれの利益は対立することが少なくない。
でも、それで対話をやめてしまっていいのだろうか?
僕自身、この文章を執筆する今日は大阪都構想の住民投票前日で、大阪市民の方々の賛成反対の声を聴き続けている。そんな中で5%の共有できる関係性の基盤があることで対話が進みやすくなることを強く感じる。
ナラティブを語りあうことは相手の思いに橋をかけて、そこを渡っていくための言葉なのかもしれない。たった90分だったけど、ガンツさんから僕が受け取ったものは大きかった。
さぁ、街に出て語りあおう。
レポート:荒川隆太朗(理事)