勝部麗子さんの実践と
コミュニティ・オーガナイジングの接点を探る
コミュニティ・ソーシャルワーカーとして困っている人を支え、地域を巻き込んで支え合う仕組みをつくる、勝部麗子さんの豊中での実践を、ガンツ博士がコミュニティ・オーガナイジングの視点で読み解きます。
<Contents>
1.豊中での再会
2.「具体的な人」の話をしよう
3.その人がもっている力を蓄えて、伸ばしていく
4.ミッションを共有する8,000人のボランティア
5.コミュニティ・ソーシャルワーカーの3つの側面
6.小学校区ごとの福祉委員会
7.地域の政治的エンパワメント
8.勝部さんのような実践を広げるためには
9.近所の人を支える輪を広げるには
10.福祉施設を地域に開かれたものにするには
むすび ~学んだことがみんなの能力として共有されるために~
■対談者■
勝部麗子さん(豊中市社会福祉協議会事務局次長)
マーシャル・ガンツ博士(ハーバード大学公共政策大学院)
■モデレーター■
室田信一(COJ副代表理事、首都大学東京准教授)
■通訳■
松澤桂子(COJ理事)
■編集■
小田川華子(COJ理事)
<開催趣旨>
室田:今回の対談は、勝部さんの実践内容とコミュニティ・オーガナイジングという考え方がどういうところでつながってくるのかを、知っていただく一つのきっかけにできればということで開催することになりました。
僕はもともとコミュニティ・オーガナイジングをずっとやっていて、今回来ていただいています社会福祉協議会で研修することもあります。ただ、「コミュニティ・オーガナイジングをやりましょう」と言っても、そのような研修はなかなか成り立たないわけです。今、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJのワークショップで紹介しているコミュニティ・オーガナイジングのスキルは、間違いなく現場で役に立つものですし、ぜひこれを生かして日本の社会の中で活用して、市民の力を広げていきたいという思いはあるのですが、まだ十分にうまくつなぎきれていないこともあります。
勝部さんは、去年ガンツ先生のワークショップを直接受けてくださいました。そのへんも含めて、勝部さんの実践とこのワークショップなど、ガンツ先生の考え方との接点はどこらへんなのかを学ぶことができればという思いで企画しました。どうぞよろしくお願い致します。(拍手)
1.豊中での再会
ガンツ博士:こんにちは。私はマーシャル・ガンツです。初めまして。この1年間、COJと一緒に活動できて、大変うれしく思っています。ここにいる皆さんと、日本での活動に自分が関われていることを大変光栄に思っています。自分が今まで想像したこともないような場所で教えることができて、それが広がっていくことが大変喜ばしいことです。
昨日、麗子さんの豊中の現場を見せていただきました。昨日の現場で感じてきたことをシェアすると同時に、皆さんと一緒にこの場を良いものにしていきたいと思います。
コミュニティ・オーガナイジングの実践では、私たちはストーリーを話しますし、問題を解決しようとしますし、多くの人と一緒に取り組んでいこうとします。COJがワークショップを通してしようとしていることは、そのような誰でもしていることを、枠組みにして教えることで、誰でも、意図的に、効果的に実践できるようにすることなのです。COJが紹介しているコミュニティ・オーガナイジングは、全く新しいことを導入しているのではありません。今日の午後、皆さんと学べることを、大変楽しみにしております。(拍手)
勝部:豊中市の社会福祉協議会の勝部です。昨日は、ガンツ先生に豊中社協にお越しいただいて、深田恭子さんの『サイレント・プア』のポスターを見ていただいて(笑)。
ガンツ博士:イエス!(一同笑)
勝部:そういうドラマが始まったことや、『プロフェッショナル』で私たちの現場が紹介されて、豊中がロールモデルとして、今の日本の中で何をやっているのかを紹介してきた1年だったことをお話ししました。昨日は、いろいろな質問が鋭くて、面白くて、会話が2時間とても弾みました。私がどういう戦略で、どのように腹黒いか、そういう話も鋭く質問されてとても面白かったです。
何をやるかはみんな言えるけど、どのように組み立てていくのか、どのように人を動かしていくのかについては、日本人的にはあまりそこまで言わない文化できているので、本当のことが分からない部分があると思います。それをきちんとプログラムにしていくところは、すごく興味を持ちました。意図的にやっていくことで、さらにバージョンアップしていけることもあると思うので、今日は戦略など、そのようなお話も少しできればと。どういう戦略で取り組んでいるのかを鋭く質問していただいて、戦略をお話しさせていただきます。
2.「具体的な人」の話をしよう
一人の問題から出発し、周りの人を共感させて町を良くしていく
室田:ガンツ先生は、昨日現場を見られて、山ほど質問があるということです。そこでまず、勝部さんが先ほど「意図的にやってきた」とおっしゃっていたので、勝部さんがどうした意図をもって地域で実践を重ね、どういう実践がこの間発展してきたのかを、少しお話しいただいてもいいですか。
勝部:昨日、阪神淡路大震災の後、ずっと豊中の町を新たにリニューアルしてきたという話をしていました。それまでの社会福祉協議会と私たちの組織がやっているオーガナイジングは、「町づくりをしましょう」でした。1人の問題を解決することと町をつくることは別々に考えていて、「みんなで町を良くしましょう」という目標でやっていくことをしていました。「みんなで助け合いましょう」と言っている限りは、なかなかミッションが共有されない、誰を助けるのかよく分からなかった。
そこで、「ストーリー・オブ・セルフ」(解説参照)。「1人」の問題に焦点を当てることにしました。その人の問題を解決するというところで、周りの人を共感させて町を良くしていくという手法にチェンジしたのです。実は、1人の問題を助けることは、1人しか助けないのではないかと批判した人がいたのですが、結果的にそのことをやることで組織が強くなり、ミッションが明確になっていました。つまり、「ストーリー・オブ・ナウ」(解説参照)だけを説明して皆さんを組織しようと思っても、そこに「セルフ」がない限りは変わっていかないということを、去年の先生のお話を聞きながら、私がやってきた手法は、そこをチェンジしたことなのではないかと思いました。
室田:つまり、今の「ストーリー・オブ・ナウ」というのは、緊急性の話で、「今、地域は超高齢者社会です。何とかしましょう」と言っても、みんなはあまりそこにコネクトしない、つながらないわけです。その中で、具体的に「誰々がこういう思いを持っている」ときちんとフォーカスするところから、地域の問題が、どこかの誰かがニュースで言っている話から、よりリアリティーのある話になってくるわけですね。
勝部:そうです。具体的な人の話をすることで、私たちのストーリーとしてフォーカスできるようになったんです。
地域にある障壁
参加者:地域の方を巻き込もうとしても、個人情報をどうするのかと言われてしまうことがよくあります。でも、その方がその地域で一緒に暮らしていけるのであれば、共有できる問題はたくさんあると思うので、それを今、H市でも取り組み始めて、少しずつでも広げていこうとしているところです。もちろん、それがいっぺんに広がりませんが、ある地域の1人から、それは広がっていければいいかと思っています。
ガンツ博士:H市の例ですと、障壁はいくつかあるように聞こえます。一つは個人情報の話ですし、もう一つは、地域を巻き込むことが難しそうに聞こえる。どうしたら乗り越えられるのか。
参加者:それは、地域福祉活動をする基盤が、実はH市にはありました。福祉協力委員会という地区社協があったので、そこの方々と一緒にまず学習会をしていこうということで、少しでも認知症のこと、精神の方を理解してもらい、少しずつ知っていただいて、そこから一緒にやっています。
室田:だいたい何地区ぐらい動かれているのでしたっけ。
参加者:今、13地区くらいです。
一般論?具体的なケース?
勝部:そのときの手法は、一般論の認知症の話なのか、特定の個人名ではないけれど、ケーススタディにしているのか、どちらですか。
参加者:そこは、まだ一般的になります。
勝部:私は、多分そこでケーススタディを出すときに、自分たちもそうなるかもしれないというケースを紹介して、皆さんをオーガナイジングして(巻き込んで)います。
参加者:そこが、最近は地域包括支援センターと一緒に動くようなことになっていて。個別の問題として、事例検討のようなものを地域でしていこうと、その問題が起こったところでやろうとしています。
勝部:そこにストーリーがあった方がいいですね。
参加者:そうですね。
ガンツ博士:それによって、人が共感をしてつながっていくということですね。
参加者:ありがとうございます。
3.その人がもっている力を蓄えて、伸ばしていく
強みに着目する開発的視点
ガンツ博士:コミュニティ・オーガナイジングというのは、一人一人に潜在的な能力があり、その一人一人の人生に責任を持っているという前提があります。ですので、まずは「その人が何を持っているのか」から始まります。持っていないものではなく、あるものから始まります。
もう一つのポイントとしては、その一人一人の可能性というのは、その人が単体でいることだけでは出てこない。人との関係性において、その能力が見つかり、生まれていきます。ですので、今のような「ストーリー・オブ・ナウ」、緊急性がある問題と言われているものも、個人が持っている能力などを問題の解決に提供していくことが重要です。
人は、資源ベースでものを見るか、それとも足りていないものでものを見るか、そういう二極の見方があります。豊中で見てきたものは、資源の視点での強み的なものです。その問題を抱えている人たちの中にある強みが何であるか、その強みを生かすことが大事なのです。
漫画を見せていただきました。そのキャラクターはすごく孤立して困っていた人で、その孤立しているという強みを生かして、自分の状況を人に知らせるという内容の漫画でした。そういうやり方が大事です。
室田:さらに、この中の登場人物は実際の人物なのですが、その人が今、日本語で作られた漫画を英語に翻訳する作業をやっています。英文学出身の引きこもっていた人です。
勝部:生活困窮で、餓死寸前だった人です。
ガンツ博士:その問題を解決するときに、外側から何かではなく、その人が持っているものから力を蓄えて、伸ばして解決をしていくのが基本のアイディアです。そういう意味で、開発型視点なのです。別の見方をすると、サービス提供型とは反対側にあるものです。ですので、人を力づけていくことであり、依存を生み出すものではないのです。
もう一つ、問題解決をしていくプロセスの中で、ある資源が減らないで増えていくことがすごく素晴らしいと思いました。
勝部:今までの社会福祉分野での研修というのは、例えば、誰かを援助しようというときに、どういうリソースがマッチングするか。そこはみんな分かるのですが、本人がそれを使う気にならなければ何一つ動かない。心を閉ざしている人が、自分自身がそこにアクセスしていこうという気持ちにならない限りは何も変わっていかない。そこにどう接近していくかについては、今までのプログラムで教えられたことがなくて、実はここが、ワーカーにとっては一番の勝負のしどころのはずなのです。そういう意味ではすごく共感します。
排除されている人の気持ちをワーカーが翻訳する
室田:今、だいたい国の流れというか政策的にも社会福祉の中で、今ガンツ先生がおっしゃったような、「開発的な視点を盛り込んで地域の中の資源を生かしていこう」と言うわけです。でもそれは、「皆さん、生かしてください」と言ってできるものでも、勝手に起こるものでもなく、そこには何かしら工夫がある。それこそが、もしかしたら先ほど冒頭でお話ししていた、ただ単に「今、やりましょう」ではなく、1人のストーリーの中から何か気付いてやろうと思うなど、何かしらそこに理由があって、みんなが資源を持ち出そうということになってきたと思います。
勝部さんの監修された『サイレント・プア』の中では、そういう瞬間、瞬間を描いていたと思います。いろいろな資源が持ち出されてきて、それが発展していくという支援がたくさん描かれていました。その中でも、勝部さんがこだわっていたようなシーンやエピソードがあれば、少しご紹介いただいてもいいですか。
勝部:ごみ屋敷の話がまず1話で出ます。ごみ屋敷の問題を、ごみの問題ではなくて、心の問題に描くことをしていました。その人の周りには、「出て行ってほしい」と迷惑がって、その人を排除する人たちがいる。その人たちも仲間に入れて、その人たちも包摂して支援する、助けていくということをしていました。
そこには、なぜ彼女がこういうごみ屋敷にしたのかを、ワーカーが語るシーンが入っています。
松澤:誰に対して語るのですか?
勝部:文句を言っている人たち。だから、そこの翻訳機能をワーカーが持っているということです。そういう援助の仕方をコミュニティ・オーガナイジングしていくのが、私たちのやり方。
これまでのごみ屋敷対応は「排除」だった
勝部:もう一方で、これまでの日本のごみ屋敷問題への対応は、ごみをためている人を注意して、そして家をきれいにして、その人がそこに住めなくなり、こちらの人たちがみんな幸せになるという、排除の国だったのです。
参加者:例えばごみ屋敷の問題も、専門職だけで関わってしまって、ごみを出してしまう当事者の気持ちを深くは聞けていない中でごみを片付けてしまうことが、H市でもよくありました。環境衛生を良くしてあげた方がいいのではないかというところで、ご本人に「いいよね」と言って、「うん」と、了解が取れたと思って入ってしまうけれども、結局それは、ご本人にとってはまだまだ本心ではなかったということです。
松澤:勝部さんは、それを変えていこうとされたんですね。
勝部:そうです。さらにドラマは、周りから「困った人だ」と言われていた本人自体は実は力を持っていて、社会に貢献する人に変わっていくということを描いています。
もう一つ意識してつくったことは、困った問題を抱えている、引きこもり(ニート)のお話がありました。引きこもりの人の問題です。そういう問題は、いわゆる貧困家庭にあるだけではなくて、自分たちの周りにどこにでもある問題だけど、言えないことがたくさんあるということを身近に感じてもらう。引きこもりの問題は、お金持ちの人にも存在するし、誰にでも存在するけど、みんな自分だけの問題だと思って言えなかった。
そこで、具体的な人に焦点を当てたストーリーを伝える。そういう問題は、みんな自分だけの問題だと思っていて、誰にも言えなかったけれど、実はみんなの問題だということを普遍化できるようなプログラムで、9話をいろいろな設定にしました。
ガンツ博士:お話を伺っていて感じたのは、アメリカでも同じですが、問題を抱えている人たちがいて、プロの人がその人の問題の面倒をみる。コミニュニケーションを一生懸命取って解決しようとするのが、これまでのあり方だったと思います。
今されているやり方はそうではなくて、問題を抱えている人と、その周りにいる人たちとの間を関わらせていく。糸と布に例えて、うまく合わさっていない破けた布を糸でいいかたちに合わせて、修復するような印象を受けました。
勝部:社会関係を広げるというのが、そうですね。
4.ミッションを共有する8000人のボランティア
他人事にしている限りは変わらない
ガンツ博士:社会関係を広げていくということを実践してきて、それで8,000人のボランティアが関わってくれていることなのですか?
勝部:そうです。他人事にしている限りは、形では協力しても、本当に関わる人は変わらないということがよく分かったのです。
松澤:人ごとにしている限りは変わらない。その人が変わらないと8,000人は得られないということですか?
勝部:名簿だけで8,000人にするのは簡単です。でも、実際に動く8,000人にしようと思うと、一人一人がそのミッションを共有しないと難しいです。
ガンツ博士:開発的視点というもので、人々の能力を生かしてその問題を解決していく。特に人との関係性においてそれをやっていくことを、まさに見てきた気がします。やり方としてはいろいろあるのですが、個人の問題として考えるのか、人と周りのみんなでと考えるのか、さらにその周りを囲む人たちにリーダーシップをつける能力を開発してからやっていくのか、その3つです。まさに私が見てきたのは、開発的な視点だったと思います。
それぞれの地域の文化に合わせたやり方
勝部:昨日、そのエリアによってアプローチの仕方が違うという話をしていました。アメリカは、生活レベルがある程度高い人ではないと、こういうボランティア活動には参加できないというようなお話がありましたが、豊中では全ての地域で同じようにやっていっています。全ての地域でやることがセーフティネットのインフラになるので、これを私たちの組織が持っているのは、行政への影響力につながるとお話ししました。
それを、比較的生活が厳しい人たちの町にはどういうアプローチをするのか、高い人たちにはどういうアプローチをするのかは、やはり手法が違う。それから、実際のプログラムのつくり方も違うという話をしていて。
社協は得てして、みんな同じパターンでやらそうとしている。やり方を統一することで、セーフティネットだと思いがちなのですが、やはりそれぞれの地域の文化があるので、その文化に合わせたやり方を、自分たちで考えていくことを、きちんと支援しない限りは実際にはうまくいかない。
厳しいエリアに住んでいる人たち、生活が苦しい人たちは、自分たちも苦しいので、そういう人たちに対する共感性がとても高い。そこに向かってアプローチをして、無理のない形でのプログラムのつくり方をして、少しでもいいので協力してもらうことをお願いしていく。
勝部:生活の比較的豊かな地域というのは、そういう問題は自分たちと別の問題だと考えがちなのです。そこで今度は、今の社会情勢の中での緊急性を語って、まずは頭で分かってもらう。次に1人の問題を具体的に話す中で、実はその人も、お金を持っていても苦しい思いをしているなど、そういう話を具体的に提案しながら、みんなを巻き込んでいくエリアにしました。
人々が育ててつくるセーフティネット
ガンツ博士:「セーフティネット」という言葉自体はアメリカで生まれていて、割とみんな問題ないけれども、その中でこぼれ落ちてくる人たちを拾うようなイメージのネットです。でも、勝部さんが話されているセーフティネットは少し違う、人々のベースになるものを育てると言うか。
室田:セーフティネットと言うと、落としたものを救うみたいなイメージですが、勝部さんがつくっているものは、むしろボトムアップ、何かをつくっていくというイメージなので、アメリカで言うところの言葉はぴったりはまるものではない、違うものなのではないかと思います。
勝部:室田さんの発言は、住民の主体化という言葉が当てはまると思われます。
「助けて」のきっかけをワーカーがつくる
室田:今お話ししていた比較的裕福な地域での実践の話で言うと、『サイレント・プア』の中で引きこもりのエピソードがあります。そのお父さんが自治会長さんで、そこで伝えようとしていたメッセージなのかと思っています。特に地域から信頼されて、地域の代表の存在としては弱みを見せられないというお父さんなりの悩みを抱えていて、そのジレンマを、エピソードを通して伝えようとしていたのかと思いました。
勝部:支え手も支えられる側になる。また、支えられた人も支えている側。そういう社会であるということを描きたかったというのがあります。
室田:そこの支え手の人が支えられる側になるというのは、結構ハードルが高いと思います。簡単に「助けて」と言えない。そこの「助けて」のきっかけを、ソーシャルワーカーの人がつくっていたと、ドラマでは感じ取れました。
勝部:ありがとうございます。
松澤:「支えてほしい」というヘルプサインが出せるように、うまくコーディネートしたということでしょうか?
室田:その人のセルフを語るところをお手伝いしていたのかと、僕は感じます。つまり、自分のつらさや自分の困難というものを、語れない状態から語れる状態に、ソーシャルワーカーが手伝ったのかと感じました。
個別支援を通じて地域が、職場が、まちが変わる
室田:ドラマの『サイレント・プア』のストーリーは、9話を通してそこの変化を追っていたように、僕は感じていて。主人公は、最初は職場の中でも孤立しているのですよね。でも、彼女は大切にしているものを持っていて、信念に基づいて行動している。周りはそれについてこないところから少しずつ彼女を評価し始めて、彼女の大切にしているものにだんだんみんなが引っ張られていく。最終的には、支援を受けていた人が今度は支援する側に回り、周りの職員も全員そちら側に回り、全員が一つの方向に向かっていく。行政で一番難しい人すらも、一番の仲間になっていく。その環境が最終的に整ったのが、第9話だったと思うのです。あれは、そのヒントがたくさん詰まったドラマだったと僕は読んだのですが、そこは何か意図した部分があるのでしょうか。
勝部:1話1話の個別支援の完結と、それを通じて地域が変わる、職場が変わる、町が変わるという、そういう描き方をしたいのですが、現実はなかなか9話では難しい。9回くらいでは変わらないです(笑)。
チームを作り、理解を共有していく
勝部:やはり、これはチームだと思います。行政と地域が一緒に問題解決に関わって、チーム化していく。職員も一緒に動いてチーム化していくことで、いろいろなプロジェクトや問題があるときに、いろいろな形のチームをつくり、理解を共有していく、そこがすごく重要です。
私たちも、いろいろなプロジェクトチームを、いろいろな形でどんどん作っていくので、行政内部の人たちも関わる分野がどんどん広がっているのです。環境もあれば町づくりもあるし、教育委員会もある。だから、今どんどん広がっていて、それぞれのところと地域をつなげて、どんどん組織化されていくので理解が広がります。行政や住民活動に対しての理解も広がります。
5.コミュニティ・ソーシャルワーカーの3つの側面
その人の強みを生かして甦らせる
勝部:コミュニティ・ソーシャルワーカーというのは2つの側面があると思います。今、お話があった、「助けてほしい」ということを言えない人たちからどう引き出していくかという、言えない問題をどのように自分で声を挙げて、その人の強みを見つけて、その強みを生かして、そして社会の中でもう一回活躍できる人に変えていけるかという側面です。甦らせるということです。
偏見・思い込み・排除の気持ちをコミュニティ・オーガナイジングで変えていく
勝部:そういうことと、もう1つが地域づくり、コミュニティ・オーガナイジングです。その人の周りを変えていく。その人を支える人たち、その人の周辺の人たちの偏見、その人に対する思い込み、排除の気持ちをどう変えていくかをやっていく。
ガンツ博士:その人本人に関わっていくことと、周りの人の気持ちを変えていくという2つの側面があるということですね。
勝部:そういうことです。愛情を持って人と接すると、たくさんの愛情が返ってくる。当たり前のことですけど、こういう基本的なことをきちんとやり続けると、そのことの喜びというか、大切さのようなことを分かっていく人たちの共感が広がっていく。私は、これを「いい人ネットワーク」と呼んでいます(笑)。
多分、豊中はそういうネットワークがどんどん広がっていて、そのことが面白いというか、そのことを楽しむ人たちが、今、どんどん広がっていくのだろうと思っています。
社会で共有するシステムをつくる
ガンツ博士:私の理解が間違っていなければ、その2つのフェーズのほかにもう1つあるような気がして。個人と周りの人の両方を見ていく過程で、その問題がコミュニティ自体の問題でもあり、人と人とのつながりの中にそういう問題が発生しているということだと思ったのですが、それでいいですか。
勝部:そのとおりです。
ガンツ博士:それが3つ目の視点かと思います。
勝部:それで、いろいろプロジェクトをつくる。1人の問題からプロジェクトにして、そして社会で共有するシステムをつくる。
室田:例えば、豊中では当事者グループなど、いろいろあると思います。どのようなものがあるか、リストにしたら山ほどあるようで(笑)。
勝部:10年間で35のプログラムをつくっています。また新しいものも。
ガンツ博士:そうですよね、きっと持っていますよね(笑)。
勝部:これは、今、思っているのですが、個人主義でなかなか地域とつながらない人たちを、新たにつないでいくというプロジェクトも考えています。市内の集合住宅の管理組合の連絡会をやっています。その中で、モチベーションを上げていこうという取り組みです。
6.小学校区ごとの福祉委員会
“魔法の方程式”ではなくオーガナイジング
ガンツ博士:すごく感激したのは、麗子さんに、スタッフは何人か、ボランティアは何人か、関わってケアしている人は何人かを全部聞いたのですが、それに対して、マジックというか魔法の方程式のように答えられたのは驚きでした。でもそれは、魔法ではなくてオーガナイジングなのです。チームが複数あり、それをコーディネートして、組織が成り立っているのは、本当にオーガナイズ、組織化された組織の見本だと思いました。
勝部:豊中は、小学校区ベースで福祉委員会をつくっています。その中で、最低限4つのチームをつくっています。例えば、サロン、見守り、相談を受ける、配食、子育てなどのチームがあります。それをトータルでみる役員会に運営スタッフがいて、6つの小学校区を、2人のソーシャルワーカーが面倒をみていきます。全体でいくと7圏域あり、このようにどんどん広がっていき、それぞれの所にボランティアの人たちがいます。
豊中市における校区福祉委員会、ボランティアの組織化
「なんとなく見守り」から「見守りシステム」へ
勝部:最初に、何を言って変えていったのかと運営スタッフに聞かれたのですが、それ(転機)は阪神淡路大震災のときです。それまでは何となく見守っていたのをシステムに変えていく。そのためには、見守りをしていくことの大切さや組織的にやっていく意味のようなことを、小学校区ごとに回り、ずっと話をして、オーガナイジングしていく。
それに対してはいろいろ批判もありました。「面倒くさい」、「市役所がやるのではないのか」、「私たちがそこまでやらないと駄目なのか」という話はたくさんありました。阪神淡路大震災の翌年にスタートしているので、自分たちの中に「ストーリー・オブ・セルフ」があったのです。怖い思いをしたなど、リーダーの中にもそういう強い思いを持っている人たちがいたのです。そこで、「今が変えるときだ」と、「ストーリー・オブ・ナウ」、そこからスタートしていった、という話を昨日ガンツ先生にしていました。
狭間問題に取り組む住民と行政をコーディネート
勝部:ところが、10年たった時に、せっかく作ったシステムだったのですが、問題が解決していかない組織になっていたのです。それはなぜかというと、行政の制度の狭間、せっかくいろいろな課題を見つけても、行政が解決してくれない問題がたくさん増えてきたのです。そうすると、一生懸命問題を抱えた人を見つけても解決が進まないと、住民の人たちは見て見ぬふり、見ないようになってしまったのです。
そこで、10年たったときに、もう1回システムをチェンジしたのです。解決できない問題を行政だけに頼るのではなくて、住民と行政がパートナーになって解決するというやり方に変えたのです。
松澤:解決できない問題を、行政と一緒にやっていくということですか?
勝部:誰も解決できないはざまの問題を、市民と行政と共同して解決する。そこをコーディネートすることを、私たちがやり出したのです。
住民と行政が協働する土台としてのコミュニティ
ガンツ博士:システムを10年たって変えられた点についてですけれども、よくありがちな形は、行政と住民が資源を共有して進める公民協働とよくいうけれども、そこをつなげるものがないから、結局、協働しようとしてもうまくいかない。勝部さんは、その基盤としてコミュニティをつくったので、その両者が共同する土台があり、それによって成功した。
勝部:今、日本中で失敗しそうで私が心配しているのは、コミュニティ・ソーシャルワーカーだけを配置しても、コミュニティ作りをしないままでやると、狭間の問題を結局は誰が解決するのかというと、コミュニティ・ソーシャルワーカーだけでやる話になり、一緒に動いていく仲間がいないケースになります。
ガンツ博士:そういうコミュニティ作りについて、自治体行政をどのように教育していくかが課題ということですよね。これは信一さんのお仕事かと思いますけれども。
勝部:そうですね。そこは難しい。
室田:そうですね。共感がないところには作れないということは言えます。行政の事業の中でこういったことを位置付けることが文化としてあまりないですし、どのように地域の中できちんと共感するコミュニティを作るのかは、評価の仕方も難しい。行政としては、そこにきちんとお金を付けて共感をつくり出そうという話になりにくいわけです。そこを、どのように行政の理解を得て、共感するコミュニティを作れるのかが重要かと思います。
7.地域の政治的エンパワメント
予算削減に「ノー」といえる地域の力
ガンツ博士:昨日、もう一つ感じた。予算が削減されていくと通常は困るのですが、豊中ではきちんと基盤ができていて、政治的な力をそこに蓄えたというか、しっかりそれに対して「ノー」と言えるような力をそこに蓄えることができていると思う。そうですか?
勝部:結局、日本のシステムでは、議員さんが最終的にいろいろなことを決定していく。議員さんを支持するのは住民です。住民に、私たちの取り組みを支持してもらえるように理解を広げることが重要です。
ガンツ博士:きちんとオーガナイズ(組織化)された地域では、政策と政治という関係で、政治家本位の選挙キャンペーンによって決まっていくのではなく、きちんと住民の意思がそこに反映されたまちづくりができている。
室田:別に大きな声を上げなくても、そこでしっかり組織された基盤があることを政治家の人が見たら、それを駄目にしようという動きをしなくなる。それがあることによって抑止力になっている。
勝部:そうなっていると信じたいです(笑)。
ガンツ博士:私もそう思います。
投票は、問題が解決されるように声を上げること
勝部:先ほどの話は、例えば市民参加が広がっても、投票行動にどうつながるかという話ですよね。
参加者:そうですね。そうとも言えると思います。
松澤:投票行動にどうつながるか。
参加者:人々の政治意識が高まるだろうか。そういうこととつながるだろうかということも、関心の一つ。日本は投票率がとても低い。
室田:強いコミュニティがあれば、それが民主的な社会をつくるための基盤になり得る。
参加者:なり得るだろうか。いくらつくっても、ここで戦争準備が始まると思うのですが。これはどうなってしまうだろうと思いませんか。
ガンツ博士:アメリカも同じような問題を抱えています。日本の文脈では分かりませんが、アメリカでは、人々が「投票に行く」という行動を起こすのは、問題があって、そのためにアクションを起こさなければいけない時に、みんなが投票に行くのです。
アメリカで貧困層の人が投票に行かない理由は、自分たちが投票に行っても変わらないと思っているからです。一番大きな問題であり、乗り越えなければならないのは、そういう人々をきちんとオーガナイズ(組織化)して選挙に行くように仕掛ける、問題が解決できるように声を上げることで、これが大事です。
勝部:同じですね。
ガンツ博士:2008年に黒人や若者たちの投票率が一気に上がったのは、オバマさんが選挙に出たことで、彼を応援して変化を起こせると、そのような層の人たちが思ったからです。それで結果が見られないと、またその気運が落ちてしまうのです。問題です。
問題を解決した成功体験を共有することで町が豊かに
ガンツ博士:長期的な視点で見ると、勝部さんが実践している社会福祉領域でのコミュニティ・オーガナイジング・プロセスは、すごく大きな影響があると思います。
勝部:どちらも大事だと思います。やはり日々の取り組みのなかで、自分たちで自分たちの問題を解決していくこと、と成功体験を共有することで、町がだんだん豊かになり、いろいろな人たちに思いを寄せることがどんどん広がっていくのだろうと思います。
ガンツ博士:なぜ長期的に重要なことをされていると言ったかというと、直近の問題を解決しても、その問題を解決しただけで終わってしまい何も残らないというのがよくあるからです。
今、勝部さんが実践されている方法は真逆で、直近の1人の問題を解決することで、周りの人たちみんなの力が蓄えられて伸びていくというもので、大事なことだと思います。
8.勝部さんのような実践を広げるためには
地域住民から問題を出してもらうところから始まる
参加者:地域に出ていくと「こんなことをして欲しい」、「あんなことをして欲しい」という要望がたくさん出てくるのが怖くて、出ていく勇気が持てないと社協職員の方がおっしゃっていたことがありました。でも、「そこは一緒に考えましょうということで話したらどうですか」と、お話をしていました。そこの勇気を持てれば、勝部さんがいつも対応しながらネットワークを広げていらっしゃるように、一緒に暮らしを守っていく仲間なのだ、一緒に変えていく仲間なのだと、そういう手を取り合える関係を作っていけるのではないかと思います。その一歩を踏み出せるように、何があればいいのでしょうか。
ガンツ博士:それにシフトするには、どうすればいいと思いますか。
勝部:答えを出すのはワーカーだと思っているから苦しい。問題を出してもらうことは、そこから始まるのでいいことです。それをどうやったら解決できるか、そこでまたみんなで考えることを投げ掛けていく。でも、問題があるということはオーガナイジングしていくきっかけになるので、私は問題を出してもらってすごくうれしいです。
参加者:相談されるのはうれしいですね。されなかったら、何も起こらないですから。
成功例のスキルを分解し、誰でも使えるようにする
ガンツ博士:またさらにお伺いしたいのですが、どうすれば実際に変化を起こしていけるようになるのでしょうか。もう少し詳しく言うと、既に成功例があり、その例をみんなでシェアすることはすごく重要なことだと思います。『サイレント・プア』のドラマもまさにそうです。それを観た人たちが、どのように実際の変化を起こしていけるか、そこの変革をどうするかが大事なのだと思います。
勝部:そのとおりです。多分、そこの方法論がないというか。今までは、魔法使いや職人など特定の人がやっている感じで、それをスキルとしてなかなか分解できてこなかったのです。そこをきちんと分解していくことが大事です。
ガンツ博士:属人的にとらえてしまうというか、「魔法使い」だと言ってしまうことにより、自分がその責任を回避しているのではないでしょうか。
勝部:そうですね。スキルを分解して、だれでも使えるようにすることが、私たちのミッションなのです。
9.近所の人を支える輪を広げるには
楽しさや面白さを伝えることで人はつながる
参加者:私は以前社協に勤めていた者です。今、自分のマンションで、ある方の支援をやっているのですが、周囲の人を動かしていく、変えていくことの難しさを、自分ですごく実感しています。近所の人に、「あなたはいい人だから」と言われてしまい、「これは一住民としてまずいのではないか」とすごく迷うところがあります。そこに今、地域包括支援センターの人に入ってもらい話をすることがあるのですが、その専門職の人が、専門職で丸く収めようとしてしまっている状況があります。
勝部さんに聞きたいのですが。こういう時に、近所の人に言葉をかけて、訴えていった方がいいのか、それとも、今の状況だと言葉ではなくて自分が何か動いていくことで、実際にその人とやっていく方がいいのか、どうなのだろうかと。
勝部:義務感でやっていると、周りの人もそうとしか思えないかもしれない。そのことでうれしかったことや楽しかったことが、相手の人から反応があって。楽しみが、面白くて「ハハッ」と笑うことではないけれど、楽しみや面白さみたいなことが伝わらないと、多分人はつながらないと思っています。
参加者:なるほど。
勝部:「支援しないと」と思っていると、結構大変です。だから、その人と仲良くなり、その人の面白いところや良さみたいなことを、周りの人と一緒に関わってやれると意味が理解できるのではないかな。頭で「何とかしないと」と思っていると、それは「専門的な人ではないから、私はできません」みたいな感じに、周りもなってしまう。だから、友達になることにいのかもしれません。
参加者:そういうところから伝わり、つながっていくんですね。
勝部:あとは、きちんとしたルールや支援の基本的な考え方は、住民の活動を面白いと思っている専門職の人にきちんと支援してもらわないと。そこに「やっては駄目です」のような管理的な人が出てくると、自由にできなくなります。
参加者:先をいろいろ考えていく。そのように社協の人が出てくるといいですね。ありがとうございました。
10.福祉施設を地域に開かれたものにするには
運営の主体となるチームをいかに戦略的に作るか
参加者:今、知的障害者のグループホームのボランティアをしていますが、「あそこは知的障害者の人」と、完全に地域と別れてしまっています。そこを今、何とか地域の方々ももっと加わっていただいて、サロンのようなものもやっているのですけど、なかなか入っていただけないというジレンマがあります。
勝部:運営委員会のようなものはつくっていますか。
参加者:運営委員会はないです。理事会と、即もう現場のおじさん。本当に小さなグループホームなので、職員と理事会くらいしかないのです。運営委員会を作らなくてはと分かってはいるのですけど、メンバーがいない、頭数がいないので、もうどうしようもないのです。そういう場合、豊中さんのグループホームというか知的障害者に関わっている方々は、どのような動きをされていますか。
勝部:実はうちで運営していたデイサービスも、福祉公社から統合されてきたところで、当時はボランティアでかかわる人も少なく、どちらかというと閉鎖的なデイサービスでした。運営会議みたいなものに地域住民の代表が入るようにして、意見も言ってもらって変えていくと、人がどんどん関わるようになってきて、いろいろな活動がたくさんできるようになり、今は4,000人くらいが出入りするように変わりました。
やはりどこで苦労するかなのです。「人」で苦労すれば、協力者が増えるところもあるので、そこはもう一歩、周りの人たちへの働きかけを。
参加者:一本釣りでは、やはり駄目なのですね。「あの人、良さそう」と声を掛けても、地域全体には広がらない。そこが、やはり難しいところです。
勝部:先生の言っている、運営の主体となるチームを最初にどうつくるか。町に広げていくチームに、住民の中の誰をメンバーに入れるか、と考えて戦略的にやらないと、1人ずつやっていたら、その人が嫌になったら終わることになってしまいます。
参加者:分かりました。ありがとうございました。
小さいステップを積み重ね、組織は強くなっていく
勝部:仕組みと言うと何か大きなことのように聞こえるのですけど、小さいこと、スモールステップをどう積み重ねていくか、進化させていくかという意味です。進化させていくというのは、問題に常に向き合っていると次の課題が見えて、その次にステップアップしていく。それを進めれば進めるほど、組織が強くなっていくということなのです。でも、私たちは小さいことをたくさん積み重ねて、でも、「去年より良くなったよね」ということをどう作るかみたいなことだと、それが支援なのかと思っています
むすび ~学んだことがみんなの能力として共有されるために~
人間が自分の暮らしを良くしたいという思いがある限り
室田:最後にひと言ずついただければと思います。
勝部:私から。国が違っても、やはり人の行動や問題を解決していくときの、構造や考え方やつながり方というのは、やはり同じなのだということを、昨日お話した2時間の間ですごく思っていました。そういうことを一緒に話ができたことは、とても楽しいと思いました。「これは豊中だからできるのではないか」、「東京では大阪のおばちゃんがいないから無理だ」、「東北の人は口が重いから無理だ」と言うのですけど、実はそうではなくて。人間が自分の暮らしを良くしたいという思いがある限り、このことは通じることだと、国が違ってもそうなのだから間違いないと確信を得ました。
私が“魔法使い”ではなくなり、自分のやっていることをいろいろな先生方にもう少し分解していただいて、広がるようにまた協力していきたいです。これからの私のもう一つのミッションだと思いました。
それぞれの学びをみんなの能力に
ガンツ博士:麗子さんとは、もう20年以上知り合いのような気持ちで、昨日はお話しさせていただき、同じような考えをしていると思いました。
私の考えとしては、持っている能力や学んだことが、みんなの能力として共有されていくことが大事だと思います。それは、必ずできると思います。この社会福祉の中で、同じような気持ちを持っている人たちを見つけていくことから始められるのではないでしょうか。そのような人たちの「頭」と「心」(ハート)と「技能」(スキル)を育てていくというか、教えていくことで進めていけると思います。(拍手)皆さん、よろしくお願いします。
勝部:ガンツ先生、ぜひまたカムバック・アゲイン(笑)。
室田:ありがとうございました。
<解説>
「ストーリー・オブ・セルフ」「ストーリー・オブ・ナウ」は、勝部さんがワークショップでオーガナイザーの技能(スキル)の一つとして学んだ、「話し方」のことです。
“パブリック・ナラティブ”と呼ばれるこの「話し方」は、下の三つの部分で構成されます。勝部さんはここで、本来「自分自身」について話す「ストーリー・オブ・セルフ」を、「困っている人」に置き換えて活用していると話してくださいました。
ストーリー・オブ・セルフ
「ストーリー・オブ・セルフ」は、あなたがリーダーシップを発揮しようと思い立った価値観について語るものです。
ストーリー・オブ・アス
「ストーリー・オブ・アス」は、語り手である「あなた」とだけではなく、他者がお互いに協力し行動することを動機付ける価値観を語るものです。
ストーリー・オブ・ナウ
「ストーリー・オブ・ナウ」は、どのような緊急の問題があなたを突き動かし、コミュニティのために行動をとることになったのかについて語るものです。