コミュニティーオーガナイジングの父と呼ばれるのは、活動家のソウル・アリンスキー(Saul Alinsky)だが、彼は労働組合運動から影響を受けている。アリンスキーは1940年にIAF(産業地域社会事業団:Industrial Area Foundation)を設立し、コミュニティ・オーガナイザーの育成と訓練をはじめたのだが、その際、CIO(産業別労働組合会議:Congress of Industial Organizations)の組合作りの戦略を学んだと言われている。
そのIAFは、今度は回り回ってアメリカの労働運動、市民運動に大きな影響を与えていく。IAF卒業生であり、大規模なキャンペーンに成功した事例としては、1960年代のシーザー・チャベス(Ceasar Chavez)らが中心になって実施した農業労働組合(UFW:United Farm Workers)の運動があげられる。COJの提供するワークショップの開発者であるマーシャル・ガンツもともに活動した経験を持つチャベスは、カリフォルニア州を中心に、経営者だけでなく政治家にも圧力をかけ、340マイル(約550km)もの大行進を数千人で行い注目を集めることで労働条件の改善を勝ち取ってきた。1970年代はじめにUFWが呼びかけたブドウの不買運動には、4700万人が参加したという。
UFWの活動を経験したオルガナイザーは、さらに1980年代以降の労働運動に大きく貢献していく。SEIU(サービス従業員国際組合:Service Employees’ International Union)に合流し、既存の労働組合が手をつけてこなかった移民の多い清掃労働者を組織化するキャンペーン「ジャニターに正義を」を成功させた。このキャンペーンは、昨今「社会運動ユニオニズム」と表現される、「新しい労働組合運動」のモデルケースとして紹介されており、コミュニティ・オーガナイジングが、アメリカのビジネスユニオニズムの克服に影響を与えているケースとして考えられる。このキャンペーンは、映画化(「ブレッド&ローズ」)され日本でも見ることができる。特に、この手の映画の中でオーガナイザーをしっかりと描いたものは少ないので是非レンタルして見て欲しい。
このように、コミュニティーオーガナイジングのアメリカの歴史を見てみると労働組合運動と密接に関係していることがわかる。日本の労働組合運動もまた、コミュニティーオーガナイジングを取り入れることで運動を活性化できると私は思っている。次回は、その具体的な導入の方法を考えてみたい。
中嶌聡
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