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オーガナイザーTIPS 『被抑圧者の教育学(新訳)』(副理事 室田信一) 2016年7月のニュースレターより

※このコーナーでは、ワークショップを受講頂いた方、オーガナイザーを志す方にとって活動のヒントとなるような内容をお届けします。今回は書籍の紹介です。

パウロ・フレイレ著(三砂ちづる訳)『被抑圧者の教育学(新訳)

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 アメリカでコミュニティ・オーガナイザー同士が会話をすると、「アリンスキアン」か「フレイリアン」かというような話題になることがあります。「アリンスキアン」とはアメリカのコミュニティ・オーガナイザーであり”Rules for Radicals”の著者としても知られているソウル・アリンスキーが提唱してきたオーガナイジングの実践方法を参考にする人のことです。一方、フレイリアンとはブラジルの識字教育実践家で今回紹介する『被抑圧者の教育学』の著者として知られているパウロ・フレイレが提唱してきたオーガナイジングの実践方法を参考にする人のことです。それらはコミュニティ・オーガナイジングの「流派」と言ってもいいかもしれません。
 フレイレは、自身の実践やその理論をコミュニティ・オーガナイジングと称してはいませんが、多くのコミュニティ・オーガナイザーに参照されてきました。コミュニティ・オーガナイザーに最も共感されたフレイレの考え方は、常に「被抑圧者」をアクションの中心に位置付けていることでしょう(COJが用いるタームでそれは「同志」にあたります)。フレイレは社会構造上の抑圧関係を抑圧者と被抑圧者によって生み出されていると整理しました。例として、ブラジルにおける識字教育実践であれば、非識字者であるブラジルの先住民を被抑圧者と位置付けました。そして、そこに関わるオーガナイザー(教育者)の関与のあり方を丁寧に分析しています。

 フレイレは、被抑圧者と抑圧者はその抑圧的な関係に身を置いていることでお互いを非人間的な関係に留めてしまっていると考えました。そして、被抑圧者が抑圧者を凌ぐほどの力を蓄え、両者の立場が逆転したとしても、再び抑圧構造にお互いが身を置くのであれば、結局非人間的な関係性から解放されることはないと考えたのです。

 フレイレが重視したことは、個々人の「意識化」ということです。なぜ自分は抑圧されているのか、それはどのような社会構造から生み出されているのか、そして自分たちは何を望んでいるのか、そうした問いと向き合うこと、そしてその問いに基づく対話を同志と繰り返すことがアクションへとつながるのです。オーガナイザーはそのプロセスを側面から支援する存在なのです。マーシャル・ガンツ先生が提唱されるパブリック・ナラティブとはまさにこの「意識化」の促進を体系化したものと私は捉えています。

 冒頭で「アリンスキアン」や「フレイリアン」というような「流派」があると書きましたが、今後は「ガンツィアン」という「流派」が生まれてくるかもしれません。しかし、草の根の市民活動を推進する者にとって、そのような「流派」にこだわりすぎることはとても危険なことです。なぜなら、「同志」のためであれば使える資源は貪欲に活用するというプラグマティックな態度がコミュニティ・オーガナイザーには求められるからです。そのような意味でも、本書が多くのコミュニティ・オーガナイザーの実践の肥やしになることを願って本書を紹介させていただきます。

(副理事 室田信一)