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特別寄稿:アメリカ大統領選挙を通じて感じたオーガナイザーの役割、COJのこれから(理事 林 大介)2016年11月のニュースレターより

海を越えた日本でも注目されているアメリカ大統領選挙。
私の小学生の息子も、その結果に驚き、小学校でも話題になっていました。

さて、ご存知の通り、アメリカでの投票年齢は1971年から「18歳以上」です。アメリカでは、選挙となればまさにお祭り騒ぎとなるのですが、小学校入学前から、選挙や政治について話したり、討論会に参加したり、選挙運動に参加するのが“当たり前”です。
その背景には、「子ども時代から民主主義を体験する」という共通した思想があります。

くしくも本年、日本では選挙権年齢が18歳に引き下がり、高校での選挙教育・主権者教育のあり方に注目が集まりました。

そこで、アメリカの学校ではどのような選挙教育・主権者教育(特に、大統領選挙を題材にした模擬選挙/なお、今回訪問したアリゾナでは、civic education と表現していました)が取り組まれているのかを視察してきました。
2008年(オバマ氏が大統領になった年)にも、同じく模擬選挙を見るために、ニューヨークとワシントンの小学校~高校を視察したのですが、今回は現地NPOの関係もあり、アリゾナ州に行くことになりました(ちなみに、アリゾナ州は共和党の地盤です)。

今回訪問および意見交換を行ったのは、以下の通りです。

*学校関係
・小学校:Sirrine Elementary School
・中学校:Desert Foothills Junior High School
・高校:Red Mountain High School
・大学:Pastor Center for Politics & Public Service, Arizona State University College of Public Service and Community Solutions

*シティズンシップ教育、模擬選挙関係
・Kids Voting USA
・Kids Voting Arizona
・アリゾナ州教育局:Arizona Department of Education(Social Studies and World Languages)

*選挙関係
・Early Voting booth(期日前投票所)
・共和党 選挙事務所
・民主党 選挙事務所
・クリントン候補者の集会

アメリカでの模擬選挙そのものは、1980年代から始まっています。そして、模擬選挙実施の中心を担っているのが、今回、現地でアテンドをしていただいたKids Voting USA(KVU)という団体で、アリゾナに全米本部があります(KVU自体は、さらに上部団体の法律事務所内に事務所を構えており、この法律事務所では、模擬裁判や学校でのいじめ防止に取り組むなど、法律事務所そのものとしてcitizenship educationに取り組んでいました)。

この団体が教員向けテキストや生徒向けワークシートなどを作成し、全米に拡げており、活動の中心をオーガナイザーが担っていました。日本と同様に「そんなことに取り組む時間がない」と言われがちな先生に対して働きかけ研修を行い、州教育局と連携し、資金集めを行うなどしています。また、KVUの紹介でアリゾナ州立大学公共政策部でサービスラーニングを展開している教授にお会いしましたが、彼もオーガナイザーとして活動していたりと、”オーガナイザー”そのものが一般的に使われていることを実感しました。

cwhvgk2vmaa5iqa<Kids Voting USAの責任者のケビン、スーザンと>

また、クリントン候補者の集会にも参加しましたが、開始までに4時間ほど並んだのですが、スタッフが長蛇の列を何度も「次の週末、選挙ボランティアをしませんか?」と呼びかけたり、集会参加にあたって登録したメルマガでは「あなたの1ドルの寄付がクリントンの当選につながります」というメールが毎日流れてきました。

COにおける体系だった学びだけではなく、そこでの学びを実践に繋げ、実践を後押し、互いにエンパワーメントしあえる関係性を創っていけるようにしていくことが大事だなぁと、アメリカで体感しました。とはいえ、こうしたことによる成果は、目に見えやすいものもあれば、見えにくいものもあります。日本人はどうしても見えやすいものだけで評価しがちなのですが、見えにくいけど評価すべきものを、いかにして”見える化”していくかが、COJのこれからの展望に関わってくるのではないか、と思います。

cwnmfuaw8aafewp<アリゾナの小学3年生の授業を2クラス見学。1つは「Election and voting」、もう1つのクラスは「The Rights to vote」がテーマ。 >

また、アメリカで強く感じたのは「市民/シティズンシップ」というのを自分事としてとらえよう、という風潮です。
小学校でも、中学校でも、自分の問題として、自分が考えていること、感じていることを話すことが求められ、話すことを大事にしています。多様で異なる価値観を互いに認め合う環境が前提としてあるからこそ、自分のことを話すことへのハードルが下がっています(確かに、はなから間違っているにも関わらず間違ったことを堂々と主張することは問題がありますが、それでも自分が信じることを自分の言葉で伝えることは大事なことです)。
ただ日本では、「自分のことを話す前に、まずは他人の話を聴くこと」が求められ、「みんな違ってみんないい」と言いながらも同質性が押し付けられがちです。

もっともっと、自分の想いや考えを遠慮なく伝えることができるようにしていく環境整備をしていくことがないと、いくらCOを広めようとしても、リーダーが孤立し、空回りし、徒手空拳になったりするのではないか。そのためには、COJのミッションの一つとして、市民活動のリーダーが孤立しない環境整備にも取り組むべきではないか。

そんなことを、アメリカの小学校、中学校などにおけるcivic educationの現場を通じて感じました。

林 大介(COJ理事/模擬選挙推進ネットワーク事務局長)